In silico

「in silico（イン・シリコ）」は、生物学や医学分野の研究で用いられる専門用語で、「コンピュータを用いて」という意味を持ちます。これは、生体内での実験を指す「in vivo（イン・ビボ）」、試験管内での実験を指す「in vitro（イン・ビトロ）」という用語に倣って作られました。

「in silico」という言葉は、「シリコン（ケイ素）の中で」という文字通りの意味を持ちますが、これはコンピュータの半導体にシリコンが使用されていることに由来します。実際の研究活動においては、コンピュータ上でのシミュレーションやモデリングによる実験を指し、特にバイオインフォマティクス分野で頻繁に使用されます。

分子生物学や生命科学の研究では、従来、細胞や生体分子を直接扱う実験や測定が主流でした。これらの実験は「ウェット（wet）」と呼ばれ、実際に試薬や細胞、生体分子を扱う作業を伴います。一方、「in silico」は、このようなウェットな実験とは対照的に、コンピュータ上でデータ解析やシミュレーションを行い、実験結果を予測したり、理論的な検証を行う手法です。そのため、「in silico」での研究は「ドライ（dry）」とも呼ばれることがあります。この「ドライ」という表現は、実際の生物試料を必要としない、コンピュータ上での処理に焦点を当てていることを意味します。

具体的には、「in silico」の手法は、以下のような場面で活用されます。

タンパク質の構造予測: アミノ酸配列からタンパク質の三次元構造をコンピュータ上で予測する。
創薬: 薬剤候補となる化合物の構造や相互作用をシミュレーションし、有効な薬剤を探索する。
遺伝子発現解析: 大量の遺伝子発現データを解析し、特定の疾患や生物学的プロセスに関わる遺伝子を特定する。
代謝経路のモデリング: 生体内での代謝反応をモデル化し、シミュレーションによって反応経路を解析する。
次世代シークエンサーのデータ解析: 大量のゲノムデータを解析し、遺伝子の変異や個体間の違いを検出する。

「in silico」の研究は、ウェットな実験を補完するだけでなく、実験が困難な状況や大規模なデータ解析、予測に基づいた研究を可能にします。また、実験に要する時間やコストを大幅に削減できるという利点もあります。しかし、計算結果が実際の生物現象と完全に一致するとは限らないため、ウェットな実験による検証も重要です。

このように、「in silico」は現代の生物学研究において欠かせない手法の一つとなっており、今後もその重要性は増していくと考えられます。

関連用語:
in vivo: 生体内での実験
in vitro: 試験管内での実験
in situ: 生体内あるいは試験管内での局所的な状態での実験
* in papyro: 紙媒体での研究、論文上での研究、理論研究

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