JPEG 2000

JPEG 2000：高効率画像圧縮技術とその規格

JPEG 2000は、静止画像を圧縮するための国際標準規格であり、その高度な圧縮技術と多様な機能から、様々な分野で活用されています。本稿では、JPEG 2000の技術概要、規格、符号化手順、そして現状の動向について詳細に解説します。

JPEG 2000の技術概要

JPEG 2000は、JPEGの後継技術として開発され、JPEGを凌駕する圧縮効率と、スケーラビリティ（多様な解像度やビットレートでの利用）を実現しています。これは、離散ウェーブレット変換(DWT)や算術符号化といった高度な技術を用いることで可能となっています。JPEG 2000では、可逆圧縮（ロスレス）と非可逆圧縮（ロッシー）の両方を同一の方式で実現しており、用途に応じて最適な圧縮を選択できます。

JPEGとJPEG 2000の主な違いは、周波数変換に離散コサイン変換(DCT)ではなくDWTを用いている点、そしてエントロピー符号化にハフマン符号ではなく算術符号を用いている点です。さらに、JPEG 2000は、EBCOT (Embedded Block Coding with Optimized Truncation)アルゴリズムにより、高い符号化効率と圧縮後のレート制御(PCRD-opt)を実現しています。

JPEG 2000の規格

JPEG 2000は、ISO/IEC 15444およびITU-T勧告書Rec.T.800シリーズとして規定されており、Part 1からPart 16までの規格が存在します。ただし、規格で規定されているのは、コードストリームをデコードするための手順であり、エンコーダの具体的な実装方法は規定されていません。

コードストリーム構造

JPEG 2000のコードストリームは、SOC(Start of Codestream)マーカから始まり、EOC(End of Codestream)マーカで終わるバイナリデータです。SOCマーカの後にはメインヘッダがあり、符号化パラメータの情報が格納されています。その後に、タイルパートが格納され、各タイルパートはタイルパートヘッダと圧縮データで構成されます。

圧縮データは、プログレッション順序に従って格納されます。プログレッション順序とは、レイヤ、DWTレベル、コンポーネント、プリシンクトの4つの要素をどの順番でデコードするかを指定するもので、LRCP、RLCP、RPCL、PCRL、CPRLの5つの順序が定義されています。

符号化手順

JPEG 2000の符号化手順は、大きく分けて以下のステップから構成されます。

1. 入力画像の処理: 画像のサイズ、ビット深度、色空間などを確認し、必要に応じてタイル分割、DCレベルシフト、色空間変換を行います。
2. 離散ウェーブレット変換(DWT): 入力画像に対してDWTを行い、周波数領域に変換します。DWTレベルは0～32まで指定可能です。
3. 量子化: DWT係数を量子化します。ロスレスモードでは量子化ステップは1に固定され、ロッシーモードでは可変です。
4. ROI(Region of Interest)処理(オプション): 特定の領域を優先的に符号化します。
5. EBCOT (Embedded Block Coding with Optimized Truncation): コードブロックに分割された量子化係数を、ビットプレーンごとにSignificance Propagation(SP), Magnitude Refinement(MR), Cleanup(CU)の3つのパスで符号化します。
6. MQ符号化: 各パスで得られたビット列をMQ-coderを用いて算術符号化し、コードストリームを生成します。
7. レート制御(オプション): 圧縮率と画質のバランスを調整します。
8. レイヤ生成: SNRスケーラビリティを実現するためのレイヤを生成します。
9. パケットヘッダ生成: パケットヘッダに各種情報を付加し、パケットを生成します。
10. パケット生成: プログレッション順序に従ってパケットを並べ替えます。

JPEG 2000の動向

JPEG 2000は、デジタルシネマ、医療画像、公文書アーカイブなど、高画質・高圧縮が求められる分野で広く利用されています。しかし、計算負荷の高さからコンシューマ向け分野、特にデジタルカメラへの普及は限定的でした。Part 15(High Throughput JPEG 2000)では、この問題を解決するための新たなブロック符号化アルゴリズムが導入され、スループットの大幅な向上が実現されています。

対応ソフトウェア

JPEG 2000に対応したソフトウェアは、Adobe Photoshop、Adobe Acrobat、GIMP、FFmpegなど、多くの画像処理・編集ソフトウェア、そして様々なOSで利用可能です。

まとめ

JPEG 2000は、その優れた圧縮効率とスケーラビリティから、今後ますます重要な画像圧縮技術となることが期待されます。計算負荷の課題も、Part 15によって解決に向かっていることから、今後、より幅広い分野での普及が進むと考えられます。

もう一度検索