K-19 (原子力潜水艦)

K-19の歴史と艦の悲劇

K-19（ロシア語：К-19）は、ソビエト連邦海軍の658型潜水艦において初めて原子力潜水艦として建造された一隻です。この艦は、戦略ミサイル原子力潜水艦としての役割を担い、NATOコードネームはホテルI型で知られています。K-19はその歴史の中で多くの不幸な出来事に見舞われ、「ヒロシマ」という非公式な渾名が付けられています。この名前は、特に1961年に発生した致命的な原子炉事故に起因しています。

1. K-19の建造と就役までの道程

K-19の建造は1958年10月に始まり、1959年4月には進水しましたが、その間のトラブルは多く、建造過程で何人もの作業員が命を落とす事故が発生しました。原子力潜水艦の開発は急務であったため、工期の短縮が求められましたが、その結果、技術的な未成熟が露呈しました。この建造過程における不運は、艦の運命を覆すものとなりました。艦の洗礼は伝統に反して男性が行い、その際のシャンパンの瓶が割れなかったことが不吉な兆しとして捉えられていました。

K-19は1961年4月30日に正式に就役しましたが、就役後も様々な問題に悩まされました。例えば、試験航行中には船体の防音タイルが剥がれ、原子炉区画での浸水事故も報告されています。

2. 原子炉事故（1961年）

K-19は1961年7月4日、北大西洋で原子炉の冷却系にトラブルが発生しました。この時、艦長は冷却システムの修理を指示し、修理班が高線量の放射線を浴びながら作業を行いました。事故が発生した際、艦は通信手段を失い、外部との連絡が取れない状態となっていました。冷却が間に合わず、原子炉は800℃以上に達し、艦長は核爆発を恐れてパニックに陥りました。

修理は成功したものの、原子炉修理班は致命的な放射線被曝を受け、8名が急性放射線症候群で命を落としました。この事故は、乗組員や遺族に長らく秘匿され、情報は一般には知られなかったのです。

3. 衝突と火災の悲劇

K-19はその後も様々な事故に見舞われました。1969年11月には、アメリカの原子力潜水艦ガトーとの衝突事件が発生しました。この事故では艦のバウ・ソナーシステムが破壊され、前方の魚雷発射管も損傷しました。さらに1972年2月には、機関室からの火災が発生し、28名の乗員が命を失いました。この火災は油圧オイルの漏洩が原因で、救助活動には30隻以上の艦船が関わり、数週間にわたって現場での救助活動が続きました。

4. K-19の退役とその後

K-19は実験艦としての性格が強く、1979年には通信特務潜水艦に改編された後もトラブルに見舞われ続けました。1991年、艦内で再び原子炉のトラブルが発生し、その結果、退役が決定づけられました。

その後、2003年には廃艦の決定が下され、2006年にはかつての乗員によって艦を博物館や退役水兵のクラブとして蘇らせようとする動きが起こりましたが、一部の現役・退役乗員からは強烈な反発がありました。

5. K-19を題材とした作品

K-19の逸話は多くの映画やドキュメンタリーの題材となっています。特に2002年に公開されたアメリカ映画『K-19』では、実際の事故を基にしたストーリーが展開されており、元乗組員たちからの反発も受けたほどです。また、ドキュメンタリー『K-19: Doomsday Submarine』ではK-19の歴史や運命が描かれ、原子力潜水艦のリスクについても考察されています。

K-19は、その激動の歴史を通じて多くの命が失われた艦であり、ソ連の原子力潜水艦の運用の危険性を物語る象徴的な存在として記憶されています。

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