Light〜saw the light & shade〜

清春の広範な音楽活動の中で、新たな側面を提示する重要なアルバムの一つが、『light〜saw the light & shade〜』（ライト ソウ・ザ・ライト・アンド・シェイド）である。この作品は、同時期に発表された『shade〜saw the light & shade〜』とセットになる形でリリースされており、二つのアルバムが互いに異なる音楽的アプローチを取りながら、清春の表現世界の「光」と「影」を描き出す構成となっている。

長きにわたり日本のロックシーンの第一線で活躍してきた清春だが、本作ではそのサウンドメイキングにおいて、これまでの彼の作品に多く見られたスタイルから一線を画す試みが行われている。特に顕著なのが、アコースティックな楽器編成への大幅なシフトである。従来のエレキギターを基調としたパワフルなバンドサウンドとは異なり、『light〜saw the light & shade〜』では、ピアノ、ヴァイオリン、チェロといった生楽器の響きが中心を占めている。これらの楽器が織りなす繊細かつ豊かなアンサンブルが、アルバム全体のトーンを決定づけている。

アルバムの楽曲構成は、全く新しい書き下ろし楽曲と、既存の楽曲にアコースティックアレンジを施したバージョンで成り立っている。このアコースティックへの回帰は、アルバムの制作コンセプトと深く連動している。本作の最大の目的は、清春というボーカリストの「歌」そのものを、飾り気なく、よりダイレクトにリスナーに届けることにある。過度な音響効果や厚いサウンドプロダクションを排し、楽器の音色を厳選することで、彼の持つ独特の声質、卓越した歌唱技術、そして感情表現の機微がより鮮明に引き立つよう意図されている。アコースティックな空間の中で、清春のボーカルは一層の存在感を放ち、歌詞に込められたメッセージや、歌声に宿る感情の機微が、聴く者の心に深く染み入る。これは、バンドという形式を一度離れ、歌手としての自己の本質に立ち返った探求の成果と言えるだろう。

アルバムのサウンドを彩る上で、参加ミュージシャンの貢献も大きい。チェロ奏者としてRobin Dupuy、ヴァイオリン奏者として土屋玲子、マニピュレーターとして五十嵐淳一、そしてピアニストとして柴田俊文といった、各分野で高い技術を持つプレイヤーたちが参加している。彼らの演奏は、清春の歌声に寄り添い、楽曲に深みと奥行きを与えている。特にストリングスやピアノといったアコースティック楽器の音色は、楽曲に叙情的な色彩を加え、清春のボーカル表現をより感情豊かに引き立てる役割を果たしている。五十嵐淳一によるマニピュレーションは、生楽器の響きに現代的な要素を融合させ、唯一無二の音響空間を創出していると考えられる。

『light〜saw the light & shade〜』は、単なるサウンドの変更に留まらず、清春というアーティストが自身のキャリアにおける新たな表現の可能性を探求し、自身の「歌」という核に立ち返った試みとして位置づけられる作品である。同時期にリリースされた『shade』との対比を通じて、彼の音楽性の幅広さや多様性がより明確に示される。このアルバムは、彼のファンはもちろん、彼の音楽に触れる全ての人々にとって、歌手・清春の真髄に触れる貴重な機会を提供するものと言えるだろう。アコースティックな響きの内に秘められた、剥き出しの感情と歌の力が、聴き手に深い感動と新たな発見をもたらす傑作である。

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