M65 (天体)

しし座の豊かな星空に輝く天体カタログ「メシエ天体」の一つ、M65（エムろくじゅうご）は、正式名称NGC 3623としても知られる美しい渦巻銀河です。

しし座の三つ子銀河の一員

M65は、同じくメシエ天体であるM66（エムろくじゅうろく）、そしてNGC 3628という三つの銀河が互いに非常に近接して見え、天体観測愛好家の間では親しみを込めて「しし座の三つ子銀河（Leo Triplett）」と呼ばれています。これらの銀河は、広大な宇宙空間に広がる「しし座銀河群」と呼ばれるグループに属しており、重力的な相互作用を経験していると考えられています。

銀河の姿と観測

M65の姿は、明るく輝く中心核を持ち、その周囲へと淡く広がっていく楕円形として捉えられます。周囲の腕構造は比較的淡く、広がりはやや不鮮明に見えることがあります。

この銀河の見え方は、用いる観測機材によって大きく異なります。

双眼鏡での観測では、しばしば隣接するM66のみが捉えられるにとどまり、M65の存在を明確に確認することは難しい場合が多いです。
口径10cmクラスの望遠鏡を用いると、M65の淡い光斑が視野に現れ、その中心構造が徐々に明らかになり始めます。
* 口径20cm以上の中型望遠鏡では、三つ子銀河すべてがそれぞれ明確な姿を見せ、M65の中心部がよりはっきりと観察できます。高倍率での観測では、あたかも中心核が二つに分かれているかのような、あるいは特徴的な暗黒帯が存在するかのような印象を受けることもあります。

観測の歴史

M65は、フランスの天文学者シャルル・メシエによって、1780年3月1日に隣のM66と同時に発見されました。メシエは自らのカタログに、「極めて淡く、星のようには見えない」と記録しています。

その後、イギリスの天文学者ウィリアム・ハーシェルは、この天体を「非常に明るい星雲であり、南北に約12分角の広がりを持ち、輝く核とその周囲に急激に拡散する様子が見られる」と詳細な記述を残しました。

19世紀の天文学者ロス卿（ウィリアム・パーソンズ）は、自身の強力な望遠鏡でこの天体を観測し、より詳細なスケッチを残しています。1848年には「奇妙な星雲で、左寄りに明るい核があり、やや右上に向かって渦巻き状の腕のような構造が見られ、核の部分は特に明瞭だ」と描写しました。さらに1854年には、「核の片側に暗い領域が存在するように見える」とも追記しており、当時の最先端の観測でもその複雑な構造が認識され始めていたことがわかります。

近年の出来事：超新星の発見

比較的最近の出来事として、2013年3月21日には、このM65銀河内にII型超新星「SN 2013am」が出現しました。この超新星は、日本の卓越したアマチュア天文家である菅野松男氏によって発見されたものです。菅野氏は既に彗星と新星の発見で業績を挙げており、この超新星の発見により、彗星、新星、そして超新星という新天体発見における、日本人として初めて、そして世界でも数少ない「三冠」を達成するという偉業を成し遂げました。この発見は、遠く離れた銀河でもダイナミックな現象が常に起こっていることを改めて私たちに示しました。

M65は、他の二つの銀河と共に「しし座の三つ子銀河」として多くの天体ファンに親しまれる存在であり、その美しい姿や観測の歴史、そして新たな天体現象の舞台として、今も私たちを魅了し続けています。

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