MAN (KANのアルバム)

KANのキャリアにおいて重要な位置を占める通算10作目のオリジナルアルバム『MAN』は、1996年5月27日にその産声を上げました。この作品は、彼が所属レコード会社をマーキュリー・ミュージックエンタテインメントに移籍して初めてリリースしたアルバムであり、新たな環境での活動の始まりを告げる一枚となりました。アルバムは全10曲で構成され、発売日と同日には、アルバムタイトルを冠した楽曲「MAN」が20枚目のシングルとして先行リリースされています。

本作『MAN』には、先行シングルとしてアルバムへの期待感を高めた「MAN」をはじめ、多彩な楽曲が収められています。収録曲の中から「涙の夕焼け」は、後に21枚目のシングルとしてリカットされ、アルバム発売から約3ヶ月後の同年8月26日に改めてシングルカットとして届けられました。これらのシングル曲は、アルバムの核となり、多くのリスナーにKANの新たなサウンドを印象づけました。

アルバムの中でも特にユニークな輝きを放つのが、「DISCO 80's」です。この楽曲は、1980年代に日本でも一大ブームを巻き起こしたディスコ文化への深い敬意と遊び心を込めて制作されました。歌詞の中には、実際に当時、若者たちが熱狂したであろうディスコバーの名前が具体的に登場し、聴く者をタイムスリップしたかのような気分に誘います。音楽面でも、この曲は非常に豪華な布陣で制作されています。楽曲の大きな特徴であるホーンセクションには、ロスアンゼルスを拠点に活躍する世界的なセッションミュージシャンたちが参加しています。特に、クインシー・ジョーンズとの仕事などで知られるトランペット奏者ジェリー・ヘイ氏をはじめとする、錚々たるメンバーが演奏に加わっている点は特筆に値します。彼らの卓越したテクニックとグルーヴが、楽曲に本場譲りの華やかさと洗練された響きをもたらしています。日本のアーティストの作品に、これほど本格的な海外のトップミュージシャンが参加することは当時としても稀であり、KANの音楽制作に対する妥協なき姿勢と、世界レベルのサウンドを追求する意欲がうかがえるエピソードです。

他の収録曲にも、KANらしい個性と多様性が光ります。「今度君に会ったら」は、発表から数年後の1999年に、KAN自身がMCを務めていた関西テレビの音楽番組『freebeat!』で、当時人気急上昇中だったシンガーソングライターaiko氏との共演が実現し、大きな話題となりました。世代を超えた二人のアーティストによるセッションは、ファンの間で語り草となっています。

アルバムを構成するその他の楽曲は、「8 days A week」「夏は二の腕発情期」「ひざまくら 〜うれしい こりゃいい やわらかい〜」「Autumn Song」「Mr. Moonlight」「指輪」です。「夏は二の腕発情期」のようなユニークなタイトルの楽曲から、「Autumn Song」「Mr. Moonlight」「指輪」といった情緒的な響きを持つ楽曲まで、KANの幅広い音楽性と表現力が詰まっています。これらの楽曲一つ一つが、アルバム『MAN』の世界観を豊かに形作っています。

『MAN』は、レコード会社移籍という新たなスタートを切ったKANが、これまでの経験を活かしつつ、80年代サウンドへのオマージュや海外ミュージシャンとのコラボレーションといった新たな試みを取り入れた意欲的な作品と言えます。多様なジャンルやテーマを探求するKANの音楽性が凝縮されており、彼のキャリアにおける重要な節目を示すアルバムとして、今も多くのファンに愛され続けています。このアルバムを通じて、KANはアーティストとしての円熟味を増し、その音楽世界をさらに深く広げていきました。

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