MELODIES (山下達郎のアルバム)

山下達郎『MELODIES』：30歳の転換期と新たな音楽性

1983年6月8日、山下達郎の7作目のスタジオアルバム『MELODIES』がリリースされました。アルファ・ムーン移籍後第一弾となる本作は、後にクリスマスソングとして不動の地位を築く「クリスマス・イブ」を含む全10曲を収録。オリコンチャート初登場1位を獲得するなど商業的にも大きな成功を収め、山下達郎のキャリアにおいて重要な位置を占める作品となりました。

30歳を目前にした転換期

リリース当時、山下達郎は30歳。音楽業界において30代でヒットを出し続けることは容易ではなく、多くのアーティストがピークを過ぎ下降線を辿る時代でした。山下達郎自身も、将来への展望が見えない状況にありました。前年秋に担当ディレクターだった小杉理宇造氏が独立して設立したアルファ・ムーンへの移籍は、所属ミュージシャン兼役員という立場上、商業的な成功が求められる大きな賭けでした。

これまでのヒット作『RIDE ON TIME』や『FOR YOU』を経て、音楽的なピークに達したと山下達郎自身も感じていたといいます。「あと何年音楽活動を続けられるのか」という焦燥感と、「会社として軌道に乗せるためにあと5～7年」という現実的な目標の間で葛藤を抱えていました。

この葛藤の中で、山下達郎は「自分のやりたい音楽」を追求することを決意します。それは「流行に左右されない音楽」「思春期に憧れた音楽」であり、自身の「オタク願望」を具現化するようなものでした。商業的な成功だけを目指さず、ミュージシャンとしての矜持を貫く決意が、このアルバム制作の原動力となりました。

歌詞への意識改革と新たな表現

『MELODIES』制作において、山下達郎はそれまで以上に歌詞に重きを置くようになりました。それ以前の作品ではサウンドを重視する傾向が強く、英語詞を想定したメロディー構造のため、日本語詞では表現に限界を感じていました。しかし、音楽活動を続けるためには、自分の言葉で自分の思想を表現することが重要だと考え、本作では「BLUE MIDNIGHT」と「GUESS I'M DUMB」を除く全曲を自身で作詞しています。

このアルバムの歌詞は、「MELODIES AND MEMORIES」をテーマに、ノスタルジックな世界観を描いています。歌詞の内容はリアルタイムの出来事ではなく、過去の思い出やイリュージョンに基づいており、「都市生活者の疎外感」や「男のやくざな感性とロマンティシズム」といったテーマが表現されています。レイ・ブラッドベリ的なイリュージョンも随所に感じられる、独特の世界観が魅力です。

批判と成功、そして今後のキャリア

発売当初、『MELODIES』は『FOR YOU』のような開放感に欠けるとの批判もありました。しかし、山下達郎は確信犯として制作しており、全く気にしていませんでした。結果的には、このアルバムでの路線変更が、その後も音楽活動を続けられる礎となったと、後に振り返っています。

『MELODIES』はオリコンチャートで1位を獲得し、前作『FOR YOU』の売上を上回る成功を収めました。1992年のリマスター盤再発時には、オリジナル盤と合わせて集計され、その人気を改めて証明しました。

『MELODIES』は、山下達郎の30歳という節目を迎えた、転換期を象徴する作品です。商業的な成功だけでなく、音楽家としての自己表現を追求した結果生まれた、彼の音楽キャリアにおいて重要なアルバムと言えるでしょう。そして、このアルバムから作詞への意識がより高まり、以降の作品にも大きな影響を与えました。また、アナログ盤はゲートフォールド仕様であり、ジャケット裏の写真もCD再発時に修正されるなど、細部にもこだわりが感じられます。

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