MULTI2

MULTI2：日本のデジタル放送を支えたブロック暗号

MULTI2は、1988年に日立製作所によって開発されたブロック暗号です。64ビットのブロック長と鍵長を持ち、日本の衛星・地上デジタル放送において長年にわたり標準暗号として活用されてきました。その高い安全性と実装効率から、日本のデジタル放送の歴史に大きな足跡を残した暗号方式と言えるでしょう。

アルゴリズムの仕組み

MULTI2は、4種類のラウンド関数（Π1～Π4）を繰り返し適用することでデータのスクランブルを行う積和型ブロック暗号です。ラウンド数は可変で、セキュリティレベルを調整できます。Feistel構造に似た仕組みを採用しており、64ビットの入力データを左右32ビットずつに分割し、各ラウンド関数で交互に左右のデータを処理していきます。

鍵スケジューラは、64ビットのデータ鍵と256ビットのシステム鍵を用いて、256ビットの拡大鍵を生成します。この際、メインのスクランブル処理と同じラウンド関数を用いてデータ鍵をシステム鍵で暗号化し、各ラウンドの出力を拡大鍵として利用するという工夫が凝らされています。

実装効率を重視した設計となっており、Sボックスやビット単位の転置といった複雑な演算は用いず、論理和、排他的論理和、加算、減算、ビットシフトといったシンプルな演算のみで構成されています。これは、当時主流だった32ビットCPUでの高速な処理を可能にするためです。

安全性と性能

MULTI2の安全性は、ラウンド数に大きく依存します。ラウンド数が12段以下の場合は、選択平文攻撃に対して現実的な時間で解読される可能性があります。しかし、32段以上であれば、DESと同等の安全性を有するとされています。

性能面では、ラウンド数によってスループットが変化します。1989年の報告では、ワークステーション上でソフトウェア実装した場合、278Kbpsのスループットが達成されたとされています。また、ISO/IEC 9979のレジスト文書では、ラウンド数32の場合、1MIPSのマシンで約1Mbpsのスループットが得られると主張されています。

標準化と歴史

MULTI2は、1995年にCSデジタル衛星放送のスクランブル方式として採用されたのを皮切りに、BSデジタル放送、地上デジタル放送へと標準暗号として採用範囲を広げていきました。デジタル放送におけるコンテンツの権利保護において重要な役割を果たしました。

MULTI2は1988年に日立製作所で開発され、1994年にはISO/IEC 9979に登録されました。その後、日本のデジタル放送規格に採用され、長年にわたって放送コンテンツの保護に貢献しました。特許は2008年に期限切れとなっています。

今後の展望

MULTI2は64ビットブロック暗号であるため、近年ではより強力な128ビットブロック暗号（AESやCamelliaなど）への移行が検討されています。次世代の放送サービスでは、これらの暗号方式がより広く採用されることが予想されます。しかし、MULTI2は日本のデジタル放送の歴史において重要な役割を果たした暗号方式であり、その功績は今後も評価されるべきでしょう。

まとめ

MULTI2は、日本のデジタル放送を長年支えてきた重要なブロック暗号です。そのシンプルな設計、高い実装効率、そして十分なセキュリティレベルは、日本のデジタル放送の発展に大きく貢献しました。64ビットというブロック長の制約はあるものの、その歴史的意義と技術的貢献は特筆に値します。

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