Master of Public Health

公衆衛生学修士（MPH）とは

公衆衛生学修士（Master of Public Health: MPH）は、公衆衛生分野における高度な専門知識と実践能力を育成するための修士号です。MPHは、人々の健康を維持・増進し、疾病を予防することを目的とする「公衆衛生」の専門家を養成する課程であり、グローバルな視点と地域社会のニーズに対応できる人材育成を目指しています。

公衆衛生とは

公衆衛生とは、組織的な社会の取り組みを通じて、疾病の予防、寿命の延伸、身体的および精神的な健康の増進を目指す科学と技術です。個人ではなく集団を対象とし、健康課題の根本原因を究明し、科学的根拠に基づいた介入策を講じることが特徴です。

MPHの教育内容

MPHの教育では、以下の5つの基本領域を体系的に学びます。

1. 疫学: 疾病の発生頻度や分布、原因を分析し、予防対策を立てる学問
2. 生物統計学: 健康や疾病に関するデータを統計的に分析する学問
3. 保健医療政策・管理学: 保健医療政策の策定、医療システムの運営に関する学問
4. 環境保健学: 環境要因が健康に与える影響を研究し、環境改善策を講じる学問
5. 健康行動学: 個人の健康行動を促進するための理論や方法を学ぶ学問

これらの専門知識に加え、感染症や生活習慣病の予防、保健医療政策の策定、地域保健活動など、幅広い分野で活躍するための実践的な能力を養います。現代社会における複雑化する公衆衛生課題に対応するため、知識だけでなく、理論と実務を架橋する教育が重視されています。日本国内の教育機関では、MPH取得者が持つべき能力（コンピテンシー）を定めています。

MPH取得者の活躍領域

MPH取得者は、人々の健康と生命を守るという公衆衛生の目的のために、以下のような幅広い分野で活躍しています。

行政: 厚生労働省などの政府機関、都道府県庁、市区町村役所、保健所など
国際機関: 世界保健機関（WHO）、ユニセフ（UNICEF）など
民間企業: 製薬企業、医療機器関連企業、シンクタンク、コンサルティング会社、データ分析会社など
研究機関: 大学、研究所など
臨床系: 病院、診療所など
その他: 介護・福祉施設、NGO、NPO、起業など

特に、国際的な公衆衛生機関では、MPH取得が採用の必須条件となっている場合もあります。

MPH取得者の多様性

MPH課程は、医療従事者だけでなく、多様なバックグラウンドを持つ学生や教員を受け入れています。医師、看護師、保健師、薬剤師などの医療従事者に加え、経済学、政治学、法律学、理学、工学、社会学、人類学、行動科学、心理学など、幅広い分野の専門家がMPHを取得し、それぞれの専門知識を活かして公衆衛生の課題解決に取り組んでいます。

たとえば、感染症対策にはデータ分析、人獣共通感染症には獣医学、地域保健には社会学など、専門分野の多様性が求められています。MPH課程では、多様な学生と教員が協働し、多角的な視点から公衆衛生課題に取り組んでいます。

日本におけるMPH教育機関

日本には、公衆衛生大学院（SPH）と、公衆衛生学に力を入れた教育を行う大学院（プログラム校）があります。これらの教育機関は、公衆衛生大学院プログラム校連絡会議を組織し、連携してMPH教育の質の向上と普及に努めています。

公衆衛生大学院（SPH）

京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻 (2000年)
九州大学大学院医学系学府医療経営・管理学専攻 (2001年、2011年以降はMaster of Health Administration（MHA）を授与)
東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻 (2007年)
帝京大学大学院公衆衛生学研究科 (2011年)
聖路加国際大学大学院公衆衛生学研究科 (2017年)

プログラム校

大阪大学大学院医学系研究科社会医学講座 (2008年)
筑波大学人間総合科学研究群公衆衛生学学位プログラム (2008年)
長崎大学大学院国際健康開発研究科（2015年に熱帯医学・グローバルヘルス研究科グローバルヘルス専攻国際健康開発コースに改組）(2008年)
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科医歯科学専攻公衆衛生学コース (2014年)
産業医科大学大学院産業衛生学専攻博士前期課程（Master of Occupational Health（MOH）を授与）(2014年)
慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科公衆衛生・スポーツ健康科学専攻 (2015年)
東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学専攻 (2015年)
広島大学大学院医系科学研究科総合健康科学専攻公衆衛生学プログラム (2015年)
高知大学大学院総合人間自然科学研究科修士課程医科学専攻公衆衛生学コース (2017年)
北海道大学大学院医学院医科学専攻修士課程公衆衛生学コース (2017年)
三重大学大学院医学系研究科医科学専攻修士課程公衆衛生学コース(2017年)
国際医療福祉大学大学院医学研究科公衆衛生学専攻(2018年)
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科グローバルヘルスリーダー養成（MPH）コース(2018年)
神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科(2019年)
静岡社会健康医学大学院大学社会健康医学研究科(2021年)

公衆衛生大学院プログラム校連絡会議と公衆衛生専門職大学院連絡協議会

公衆衛生大学院プログラム校連絡会議は、MPH教育を行う大学院が連携し、教育の質の向上と普及に取り組む団体です。一方、公衆衛生専門職大学院連絡協議会は、大学基準協会による認証を受けた公衆衛生大学院（SPH）が加盟する協議会で、専門職大学院認証評価基準の検討や教育連携の推進を行っています。

まとめ

MPHは、多様な専門性を持つ人々が集まり、複雑化する現代社会の公衆衛生課題の解決を目指すための重要な専門職学位です。MPH取得者は、行政機関、国際機関、民間企業、研究機関など、幅広い分野で活躍しています。今後も、社会のニーズに応じた人材育成と、公衆衛生の発展に貢献することが期待されます。

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