My Song (寺井尚子のアルバム)

『My Song』：寺井尚子、初のスタンダード集

『My Song』は、日本を代表するジャズ・ヴァイオリニスト、寺井尚子が2010年2月24日に発表した通算13枚目のスタジオ・アルバムです。本作は、彼女のキャリアにおいて初めての試みとなる「スタンダード集」として制作された点で、特に注目されます。それまでのオリジナル曲を中心とした作品とは一線を画し、古今東西の名曲ジャズ・スタンダードに寺井尚子ならではの解釈と演奏で新たな息吹を吹き込んでいます。

楽曲のアレンジと音楽性

このアルバムに収録された楽曲の編曲には、複数のアレンジャーが名を連ねています。寺井尚子自身も積極的に編曲を手がけており、収録曲のうちM3、M5、M7、M9、M11、M12、M13の計7曲を担当しました。また、長年にわたり彼女の音楽活動を支えるピアニスト、北島直樹はM1、M6、M10、M11の編曲を担当。さらに、ギタリストの宮野弘紀がM2、M4、M8の編曲を手がけています。これらの多様なアプローチが、スタンダード曲に豊かな色彩と新鮮な響きを与えています。寺井尚子のヴァイオリンが奏でるメロディを軸に、各アレンジャーの個性が光るサウンドが展開されており、スタンダード曲の新たな魅力を引き出しています。

参加ミュージシャン

本作の演奏には、寺井尚子のレギュラー・バンドを中心とした実力派ミュージシャンが集結しました。ヴァイオリンはもちろん寺井尚子本人が担当。彼女の表現力豊かなヴァイオリンが、アルバム全体のトーンを決定づけています。ピアノには北島直樹、アコースティックベースには店網邦雄、ドラムスには中沢剛という、長年寺井尚子を支え続けている盤石のリズムセクションが参加。安定感のあるグルーヴと繊細なアンサンブルで、寺井尚子のヴァイオリンを力強く、あるいは優しく彩っています。

さらに、特定の楽曲ではゲスト・ミュージシャンが参加し、サウンドに厚みを加えています。ギタリストの宮野弘紀は、M2、M3、M4、M7、M8の計5曲で参加。彼のギターは、ヴァイオリンとの対話やバッキングで楽曲に立体感を与えています。また、M13にはDjango Rhythm（小林圭吾、阿部義邦）がギターで参加。これらの参加により、楽曲ごとに異なる表情が生まれ、アルバム全体を通してリスナーを飽きさせない工夫が凝らされています。

制作背景とスタッフ

『My Song』のレコーディングは、2009年の9月27日から29日、10月4日から7日、そして2010年1月9日という複数の期間にわたって行われました。会場は東京都内のサウンドシティスタジオです。この期間に、じっくりと楽曲と向き合い、演奏の質を高めていったことが伺えます。

制作スタッフとしては、アルバムのプロデューサーを寺井尚子自身が務めています。演奏だけでなく、サウンド全体の方向性やコンセプトにも深く関与していることがわかります。エグゼクティブ・プロデューサーには行方均と永田俊作が名を連ねています。そして、レコーディングおよびミキシング・エンジニアは鈴木智雄（Tom Suzuki）が担当。彼の卓越したエンジニアリング技術によって、寺井尚子のヴァイオリンの美しい音色とバンド全体のダイナミクスが余すところなく捉えられ、高品質なサウンドが実現しています。

『My Song』は、寺井尚子がジャズ・スタンダードという普遍的なレパートリーに挑み、彼女自身の音楽性を通して再構築した意欲作です。キャリア初のスタンダード集として、寺井尚子のヴァイオリンが持つ歌心と円熟した表現力が存分に発揮された作品と言えるでしょう。長年の信頼関係を持つバンドメンバーに加え、ゲストミュージストや優秀なエンジニアと共に作り上げられたこのアルバムは、寺井尚子のディスコグラフィーにおいて重要な位置を占めています。

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