NGC 6397

球状星団 NGC 6397

[さいだん座]]の方向およそ7800光年の彼方に位置する球状星団[NGC 6397は、夜空で最も明るく地球から近い球状星団の一つとして知られています。同程度の距離にある有名な球状星団M4と並び、観測者にとってアクセスしやすい天体です。約40万個もの恒星が重力によって密集しており、条件が良い夜空であれば、肉眼でも淡い光点として捉えることができる可能性があります。別名としてCaldwell 86やMelotte 176とも呼ばれます。

特徴

NGC 6397は、銀河系内に確認されている多数の球状星団の中でも特異な性質を持っています。それは、「核崩壊」と呼ばれる進化段階にある星団の一つであるという点です。これは、星団中心部の恒星が高密度に凝集し、核が文字通り崩壊したかのように極めて密度の高い領域となっている状態を指します。銀河系には少なくとも20個の核崩壊過程にある球状星団が存在すると考えられており、NGC 6397はその代表例の一つです。中心部の恒星の異常な密集度は、星団内部の力学的な進化が進んでいることを示唆しています。

主要な研究成果

地球に近い位置にあり、多くの恒星を含むNGC 6397は、天文学的な様々な研究の対象となってきました。特に、銀河系の進化史や恒星物理学における重要な知見をもたらす研究が行われています。

銀河系の年齢推定

2004年には、天文学者チームがこの星団を用いて銀河系全体の年齢を推定する画期的な研究を発表しました。彼らは、チリにあるヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡（VLT）に搭載された紫外-可視光の回折格子を利用し、NGC 6397に属する2つの恒星に含まれるベリリウムの量を精密に測定しました。ベリリウムのような軽元素は、宇宙初期に生成され、恒星内部では破壊されるため、恒星表面に残るベリリウムの量はその恒星が誕生してから経過した時間の手がかりとなります。研究チームは、測定されたベリリウム量から、銀河系全体で最初の恒星が誕生した時期と、NGC 6397で最初の恒星が誕生した時期との間に経過した時間を推定することができました。この推定された時間差に、別途求められていたNGC 6397自体の推定年齢を加えることで、銀河系の年齢を導き出しました。その結果、銀河系の年齢はおよそ136億歳と推定され、これは現在の宇宙の年齢の推定値とほぼ一致する驚くべき結果でした。この研究は、球状星団が銀河系の初期の歴史を探る上で貴重な「化石」となることを改めて示したものです。

恒星の質量下限

2006年には、ハッブル宇宙望遠鏡を用いたNGC 6397の別の研究が発表されました。この研究では、星団に存在する特に暗い恒星群に着目し、その光度の下限値を明らかにすることを目的としました。恒星の光度はその質量と深く関連しており、質量が小さいほど光度も低くなります。非常に質量が小さい天体は、中心部で水素の核融合反応を持続させることができず、恒星とは区別される褐色矮星などになります。この研究で観測された暗い恒星たちの光度分布から、核融合反応によって自ら輝き続けることができる恒星に必要な質量の最小値、すなわち恒星の質量下限が示唆されました。その結果、恒星として安定した核融合を行うためには、太陽質量の約0.083倍以上の質量が必要であることが示されました。これは、恒星と褐色矮星を区別する境界線を探る上で重要な貢献となりました。

これらの研究事例は、NGC 6397が単なる美しい天体であるだけでなく、宇宙の成り立ちや恒星の性質に関する基礎的な問いに答えるための貴重な観測対象であることを示しています。

もう一度検索