P.M.9

矢沢永吉『P.M.9』：海外録音と豪華ミュージシャンが彩る80年代ポップスの金字塔

1982年7月10日、矢沢永吉の9作目のスタジオアルバム『P.M.9』（ピー・エム・ナイン）がリリースされました。前作から約9ヶ月という短いスパンでのリリースとなりましたが、この作品は矢沢永吉のキャリアにおいて重要な転換期を象徴する作品と言えるでしょう。

まず特筆すべきは、本作が矢沢永吉初のセルフプロデュースによる海外録音作品であるということです。それまでの作品とは異なる制作環境、そして海外ミュージシャンとのコラボレーションは、彼の音楽性に新たな息吹をもたらしました。参加ミュージシャンには、前作『YAZAWA』に引き続きドゥービー・ブラザーズやリトル・フィートといったアメリカを代表するミュージシャンに加え、TOTOのスティーヴ・ルカサーやジェフ・ポーカロといった、当時既に世界的な人気を誇っていた凄腕ミュージシャンが名を連ねています。彼らの卓越した演奏スキルが、アルバム全体に洗練されたサウンドをもたらし、聴く者を魅了します。

さらに本作では、全曲の作詞をちあき哲也氏が担当している点も注目に値します。矢沢永吉のアルバムにおいて、作詞家1人だけで全曲を手がけたのは、この『P.M.9』が初めてでした。ちあき哲也氏による、洗練された詩的で情感豊かな詞は、矢沢永吉の歌唱力と見事に融合し、楽曲に深みと奥行きを与えています。

アルバムタイトル『P.M.9』の由来は、矢沢永吉がタイトルを決めかねていた時に時計を見て午後9時だったことから付けられたという、何気ないエピソードが語られています。この何気なさが、アルバム全体の持つリラックスした雰囲気と絶妙にマッチしていると言えるでしょう。

リリース形態も多彩で、アナログ盤は黒いシュリンクに包まれたものと、透明なシュリンクのものがありました。カセットテープは、P.M.9のロゴが全面に印刷されたスリーブを採用していました。そして、翌1983年には、矢沢永吉作品として初めてCD化され、そのジャケットはカセットテープと同じデザインが用いられました。

収録楽曲についても、それぞれに魅力的なエピソードがあります。例えば「WITHOUT YOU」は矢沢永吉初のミュージックビデオが制作されました。「LAHAINA」は資生堂サマーキャンペーンのCMソングとして起用され、矢沢永吉自身も出演しました。「YES MY LOVE」はコカ・コーラ'82のCMイメージソングとして使用され、タイのヒットチャートで5位にランクインするなど、国際的な人気も獲得しました。

『P.M.9』は、オリコンチャートで1位を獲得するなど商業的にも大きな成功を収め、矢沢永吉の音楽キャリアにおける重要なマイルストーンとなりました。海外録音、豪華ミュージシャン参加、全曲統一作詞家、CMタイアップなど、様々な試みと挑戦が詰まったこのアルバムは、80年代を代表する名盤として、今もなお多くのファンを魅了し続けています。そのサウンド、そして時代背景を踏まえて聴き込むことで、より深くこの作品の魅力を理解することができるでしょう。

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