PAS-22

PAS-22衛星の歴史

PAS-22は、最初にAsiaSat 3という名称で知られるパンナムサットの静止通信衛星です。この衛星は、アジア全域に通信とテレビ放送を提供する目的で、1997年12月24日にプロトンロケットによって打ち上げられました。当初は東経105.5度の静止軌道に投入される予定でしたが、発射時の第4段ロケットの故障により、予定外の楕円軌道に放り出されてしまうというアクシデントが発生しました。衛星自体は機能していましたが、運用不可能な51度の傾斜を持つ軌道に達してしまいました。

打ち上げの失敗とその後

この打ち上げ失敗により、保険会社はAsiaSat 3を全損と宣言し、保険金を用いて1999年に代替のAsiaSat 3Sの打ち上げを行いました。元のAsiaSat 3は、保険会社との利益分配の合意に基づき、ヒューズ・グローバル・サービスに移管され、HGS-1という新しい名称が与えられました。この状況を受けて、衛星を静止軌道に戻す試みが始まりました。

月スイングバイの提案

エドワード・ベルブルーノとレックス・ライデノアの2名は、月の重力を利用することで、衛星を静止軌道に戻す方法を提案しました。このプロセスは、3ヵ月から5ヵ月を要する低エネルギー遷移軌道を利用したものでした。しかし、ヒューズ社はこの方法に対する技術的な自信が無く、アポロ計画で使用された自由帰還軌道を代わりに採用しました。この軌道では数日で衛星を目的の位置に到達させることが可能でしたが、傾斜角を40度しか修正できませんでした。

成功への道のり

ベルブルーノの提案を実現できなかったヒューズ社でしたが、月スイングバイのアイデアが衛星救助の鍵になることを認識しました。月面の重力を利用し、衛星に搭載された推進剤を駆使して、何度か操作を行ったのでした。1998年5月、月面から6,200km離れた地点で初の商業月フライバイを成功させ、さらにその後も34,300kmの距離で再度のフライバイを行いました。これらの操作では、衛星の推進剤を大きく消費しましたが、月スイングバイを利用しなかった場合に比べてはるかに少なくて済みました。

衛星の安定運用

衛星が安定した軌道に到達すると、ソーラーパネルの展開を試みましたが、2枚のソーラーパネルのうち1枚しか展開されませんでした。この原因は、最終軌道に遷移中に衛星が設計範囲外の温度にさらされたため、ソーラーパネルのティザーが機能しなかったからです。1999年にはHGS-1がパンナムサットに売却され、新たにPAS-22と改名されました。その後、衛星は西経60度の位置に移動し、2002年7月に活動を停止し、墓場軌道に移送されました。

結論

PAS-22の運命は、最初の打ち上げ失敗から、独創的な解決策によって救われた例として、宇宙通信技術の進化を物語っています。月スイングバイを使用することで、運用上の限界を乗り越え確実に静止軌道に到達したことは、宇宙探査と商業衛星の運用における重要なマイルストーンとなりました。

もう一度検索