POSIXスレッド

POSIXスレッドとPthreads：マルチスレッドプログラミング入門

POSIXスレッドは、複数のスレッドを同時に実行することでプログラムの処理能力を向上させるマルチスレッドプログラミングのための標準規格です。この規格を実装したライブラリは、一般的にPthreadsと呼ばれ、Unix系システムを中心に広く利用されています。Windows環境でも、pthreads-w32などの実装が存在します。

Pthreadsの概要

Pthreadsは、C言語で記述されており、`pthread.h`ヘッダファイルとスレッドライブラリで提供されています。スレッドの生成、管理、同期といった様々な機能を関数群として提供し、効率的なマルチスレッドプログラミングを可能にします。

主要なデータ型

以下はPthreadsで利用される主要なデータ型です。

`pthread_t`：スレッドへのハンドル（識別子）
`pthread_attr_t`：スレッド属性（スレッドの優先度やスタックサイズなど）
`pthread_mutex_t`：ミューテックス（相互排他ロック）
`pthread_mutexattr_t`：ミューテックス属性
`pthread_cond_t`：条件変数
`pthread_condattr_t`：条件変数属性

スレッド操作関数

主なスレッド操作関数は以下の通りです。

`pthread_create()`：新規スレッドの生成
`pthread_exit()`：現在のスレッドの終了
`pthread_cancel()`：指定したスレッドの実行のキャンセル
`pthread_join()`：指定したスレッドが終了するまで待機
`pthread_kill()`：スレッドへのシグナル送信
`pthread_attr_init()`、`pthread_attr_destroy()`：スレッド属性の初期化と破棄
`pthread_attr_getdetachstate()`、`pthread_attr_setdetachstate()`：スレッドのデタッチ状態（`pthread_join()`で待機できるかどうかの設定）の取得と設定

同期関数：ミューテックス

複数のスレッドが共有資源にアクセスする場合、データの整合性を保つために同期が必要です。Pthreadsではミューテックスを用いて、一度に一つのスレッドのみが共有資源にアクセスできるように制御します。

`pthread_mutex_init()`、`pthread_mutex_destroy()`：ミューテックスの初期化と破棄
`pthread_mutex_lock()`、`pthread_mutex_trylock()`：ミューテックスの獲得（ロック）（`trylock`は非ブロッキング）
`pthread_mutex_unlock()`：ミューテックスの解放（ロック解除）
`pthread_mutex_getprioceiling()`、`pthread_mutex_setprioceiling()`：ミューテックスの優先度上限の取得と設定

同期関数：条件変数

条件変数は、スレッドが特定の条件が満たされるまで待機するための機構です。ミューテックスと組み合わせて使用することで、より複雑な同期処理を実現できます。

`pthread_cond_init()`、`pthread_cond_destroy()`：条件変数の初期化と破棄
`pthread_cond_signal()`、`pthread_cond_broadcast()`：条件変数へのシグナル送信（`broadcast`は全ての待機スレッドに送信）
`pthread_cond_wait()`、`pthread_cond_timedwait()`：条件変数で待機（`timedwait`はタイムアウトを設定可能）
`pthread_condattr_init()`、`pthread_condattr_destroy()`、`pthread_condattr_getpshared()`、`pthread_condattr_setpshared()`：条件変数属性の初期化、破棄、取得、設定

スレッドローカルデータ

スレッドローカルデータは、各スレッド専用のデータ領域です。スレッド間でデータの共有を行う必要がなく、データの整合性を簡単に保つことができます。

`pthread_key_create()`：スレッドローカルデータと関連付けるキーの生成
`pthread_key_delete()`：キーの破棄
`pthread_getspecific()`：キーを指定してスレッドローカルデータの取得
`pthread_setspecific()`：キーとスレッドローカルデータの関連付け

Read/Writeロック

Read/Writeロックは、複数のスレッドが読み込みアクセスをする場合は同時にアクセスを許可し、書き込みアクセスをする場合は排他的にアクセスを制御する機構です。

`pthread_rwlock_init()`、`pthread_rwlock_destroy()`：Read/Writeロックの初期化と破棄
`pthread_rwlock_rdlock()`、`pthread_rwlock_wrlock()`：読み込みロック、書き込みロックの獲得
`pthread_rwlock_tryrdlock()`、`pthread_rwlock_trywrlock()`：非ブロッキングでの読み込みロック、書き込みロックの獲得
`pthread_rwlock_unlock()`：Read/Writeロックの解放
`pthread_rwlockattr_init()`、`pthread_rwlockattr_destroy()`、`pthread_rwlockattr_getpshared()`、`pthread_rwlockattr_setpshared()`：Read/Writeロック属性の初期化、破棄、取得、設定

ユーティリティ関数

`pthread_equal()`：2つのスレッドIDが等しいかどうかの判定
`pthread_detach()`：スレッドのデタッチ（終了後、リソース解放）
`pthread_self()`：自身のスレッドIDの取得

C言語によるPthreadsプログラミング例

（ここでは具体的なコード例は省略しますが、上記で説明した関数を使って、スレッドの生成、同期、終了などを制御するコードを作成することができます。）

参考文献

David R. Butenhof: Programming with POSIX Threads
Bradford Nichols, Dick Buttlar, Jacqueline Proulx Farell: Pthreads Programming
Charles J. Northrup: Programming with UNIX Threads
* Kay A. Robbins and Steven Robbins, UNIX Systems Programming

まとめ

Pthreadsは、強力で柔軟なマルチスレッドプログラミングライブラリです。本記事で紹介した関数群を理解し、適切に利用することで、効率的で信頼性の高いマルチスレッドプログラムを作成することができます。ただし、マルチスレッドプログラミングは複雑なため、デッドロックなどの問題に注意しながら開発を行う必要があります。

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