Precious (Cubic Uのアルバム)

アルバム『Precious』（Cubic U名義）

『Precious』は、日本を代表するシンガーソングライター、宇多田ヒカルが、本名である宇多田光名義で正式に日本国内でデビューする以前に、「Cubic U」という名義を用いて発表したスタジオアルバムです。この作品は、1998年1月28日に初めてリリースされました。宇多田ヒカルとしての輝かしい音楽キャリアが本格的に始まる前の、重要な布石となった一枚と言えます。

初回リリースと再発による異例のヒット

このアルバムの初回盤は、1998年に洋楽レーベルから日本で発売されました。当時の出荷枚数は約8,000枚と、極めて限定的な規模でのリリースでした。しかし、その後の状況は劇的に変化します。1999年3月31日、本作はジャケットデザインを刷新して再発売されました。この再発のわずか3週間前には、宇多田ヒカル名義でリリースされた初めての日本語のオリジナルアルバム『First Love』が発売されており、これが社会現象を巻き起こすほどの記録的な大ヒットとなっていたのです。

『First Love』の爆発的な成功により、宇多田ヒカルというアーティストそのものへの関心が飛躍的に高まりました。その結果、『Precious』の再発盤もまた、多くのリスナーやメディアから注目されることとなりました。再発盤は、オリコンによる集計で約70万枚という驚異的な売上を記録し、初回盤の規模からは想像もできないほどのヒット作へと生まれ変わりました。この再発盤は、初回盤が洋楽レーベルからのリリースだったのに対し、邦楽レーベルから発売されています。

作品の内容と制作背景

アルバムには、音楽ジャーナリストであるデイヴィッド・ナサン氏によるライナーノーツが掲載されています。ナサン氏は、「Blues & Soul」の編集者であり、「Billboard」や「NetNoir Online」といった著名な媒体にも寄稿している人物です。彼の専門的な視点からの解説は、本作が持つ音楽性や、Cubic Uとしての活動の背景を深く理解する上で貴重な情報を提供しています。

収録曲に関しては、日本盤のみに含まれていない楽曲があることが知られています。本来であれば「How Ya Doin'」と「I Don't Love You」の間に収録されるはずだったとされている楽曲「Here And There And Back Again」は、日本盤には未収録となっています。

また、アルバムの中でも特筆すべき楽曲の一つに、「Close To You」のカヴァーが挙げられます。この曲は、元々はバート・バカラックが作曲し、カーペンターズの歌唱によって世界的に知られる名曲です。本作に収録されているバージョンは、アルバムに先行する形で1997年にシングルとしてリリースされていました。この先行シングルのプロモーションの際には、著名なミュージシャンであるレニー・クラヴィッツ氏がこのカヴァーに対してレビューを寄せたことも話題となりました。

名義に関する補足事項

本作は「Cubic U」名義でリリースされていますが、これは宇多田ヒカル自身を指すソロアーティスト名義です。資料によっては小文字で始まる「cubic U」という表記が見られる場合もありますが、この「cubic U」は、Cubic U（宇多田ヒカル）、Ra U、Sking Uの3名からなるユニットを指す名義であり、『Precious』はこのユニットとしての作品ではなく、宇多田ヒカル個人の名義「Cubic U」としてのアルバムです。

『Precious』が持つ特別な位置づけ

このように、『Precious』は、宇多田ヒカルが日本で圧倒的な人気を獲得する以前の活動を示す貴重な記録であると同時に、その後のブレイクという大きな波に乗って再注目され、異例の大ヒットを遂げたというユニークな背景を持つ作品です。初回のリリース時には知る人ぞ知る存在だったものが、『First Love』の成功という劇的な変化を経て、多くの人々に聴かれるようになった本作は、日本のポピュラー音楽史においても非常に特異な位置を占めていると言えるでしょう。

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