Quake-Catcher Network

Quake-Catcher Network (QCN)

Quake-Catcher Network（QCN）は、地震科学分野における革新的な分散コンピューティングプロジェクトです。アメリカ合衆国のスタンフォード大学とカリフォルニア大学リバーサイド校が中心となり運営されており、世界中のインターネットユーザーが、自身のパーソナルコンピュータを活用して地震観測に貢献できる仕組みを提供しています。

このプロジェクトの主要な目的は、安価で広範囲にわたる地震観測網を構築し、地震発生時の揺れに関するデータをリアルタイムで収集・分析することにあります。従来の専門的な地震計ネットワークは設置や維持に高いコストがかかるため、観測点の配置には限界があります。QCNは、すでに普及しているパソコンのハードウェアを利用することで、より密度の高い観測網の実現可能性を探求しています。

プロジェクトの技術基盤

QCNは、カリフォルニア大学バークレー校が開発したオープンソースの分散コンピューティング基盤であるBOINC（Berkeley Open Infrastructure for Network Computing）プラットフォーム上で動作します。参加者は、BOINCクライアントソフトウェアを自身のコンピュータにインストールし、QCNプロジェクトを選択することで参加できます。ソフトウェアは、コンピュータがアイドル状態にある間に、地震波形のデータ収集や解析といった計算タスクを実行します。これにより、プロジェクト運営側は、個々のコンピュータの余剰計算能力を結集し、大規模なデータ処理を効率的に行うことが可能となります。

地震感知の仕組み

地震の揺れ、すなわち地面の加速度を感知するために、QCNは主に以下の二つの方法を利用します。

1. 内蔵加速度センサーの活用: 一部のノートパソコンには、落下時にハードディスクドライブのヘッドを安全な位置に移動させるなど、衝撃から機器を保護する目的で加速度センサーが内蔵されています。QCNプロジェクトは、こうした既存のセンサーを地震感知に転用します。特に、かつてのIBMおよび現在のLenovo社製ThinkPadシリーズの一部モデルや、Apple社のMacBookシリーズなどが、内蔵センサーを使ってプロジェクトに参加できる代表的な機種として知られています。
2. 外部USBセンサーの使用: 内蔵加速度センサーを持たないデスクトップPCやその他のノートパソコンでもプロジェクトに参加できるよう、QCNプロジェクトは特定の外部接続型USB加速度センサーデバイスに対応しています。参加者は、こうした専用のUSBセンサーを別途購入し、コンピュータに接続することで、地震データの収集に貢献することが可能になります。

これらのセンサーが捉えた微弱な揺れのデータは、BOINCを通じてプロジェクトサーバーに送信され、解析されます。多数の参加者からのデータが集まることで、局所的な揺れから広範囲にわたる地震動まで、より詳細な地震情報を把握することが期待されます。

プロジェクトの意義と貢献

QCNプロジェクトは、科学研究への一般市民の参加（シチズンサイエンス）を促進すると同時に、地震学の発展に貢献する可能性を秘めています。多数の参加者からのリアルタイムデータは、地震発生直後の震源位置の特定、震度分布の推定、さらには早期地震警報システムの精度向上に役立つ可能性があります。また、都市部など人口密集地における微細な揺れのデータを収集することで、構造物への影響や地震波の伝播特性に関する研究にも新たな知見をもたらすことが期待されます。

成果の公開

プロジェクトによって収集・解析された地震に関するデータや観測結果の一部は、ウェブサイト上で公開されています。特に、最近発生した地震の検知状況を示すインタラクティブな世界地図は、QCNネットワークが捉えた揺れを視覚的に確認できるツールとして提供されています。

Quake-Catcher Networkは、個々のパソコンの力を集結させることで、これまでにない規模と密度の地震観測網の構築を目指す、ユニークな科学プロジェクトと言えます。対応機器を持つ方や、外部センサーを用意できる方は、プロジェクトに参加することで、世界の地震研究に貢献することができます。

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