RL-60

RL-60 ロケットエンジン

RL-60は、航空機エンジンやタービン技術で世界的に知られるプラット・アンド・ホイットニー社（現：プラット・アンド・ホイットニー・ロケットダインを経て現在はアエロジェット・ロケットダイン）によって開発された、先進的な特性を持つ液体燃料ロケットエンジンです。

このエンジンは、その駆動サイクルとして「エキスパンダーサイクル」方式を採用しています。エキスパンダーサイクルとは、ロケットエンジンの主要な構成要素であるターボポンプ（燃料と酸化剤を燃焼室へ高圧で供給するためのポンプ）を駆動するエネルギーを、燃焼室やノズルスカートといった高温部に配置された熱交換器で、極低温の推進剤（主に液体水素）を加熱・気化させることで得る方式です。

加熱されてガス化した推進剤は、タービンを回してポンプを駆動させた後、そのまま燃焼室に送られて燃焼に利用されます。この方式の利点は、構造が比較的単純で信頼性が高いこと、始動時のシーケンスが比較的容易であることなどが挙げられます。反面、熱交換できる量には限界があるため、高推力化には制約が生じる傾向があります。

RL-60が推進剤として使用するのは、極低温の液体水素（LH2）と液体酸素（LOX）です。液体水素と液体酸素の組み合わせは、数ある推進剤の中でも非常に高い比推力（単位重量の推進剤から得られる推力の効率を示す指標）を誇ります。これは、水素が非常に軽い元素であり、酸素との反応で大量のエネルギーを発生させるためです。この高い効率は、特に長距離の宇宙輸送や惑星間ミッションにおいて、ペイロード（搭載物）の質量を最大化するために有利に働きます。

しかし、液体水素と液体酸素は極めて低い温度で貯蔵・管理する必要があるという課題もあります。液体水素はマイナス253℃、液体酸素はマイナス183℃以下に保たねばならず、断熱性の高いタンクが必要となるほか、充填や取り扱いには特別な技術が求められます。また、液体水素は密度が非常に低いため、同じ質量の推進剤でも液体酸素に比べて大きな体積を占めることになり、ロケットのタンク構造にも影響を与えます。

RL-60のもう一つの重要な特徴は、宇宙空間での複数回再着火能力を有している点です。一般的なロケットエンジンは地上や特定の軌道で一度だけ燃焼して役目を終えるものが多いですが、現代の宇宙ミッションは多様化しており、一回の打ち上げで複数の軌道に衛星を投入したり、軌道を変更したり、惑星への複雑な軌道遷移を行ったりする必要が増えています。このようなミッションでは、一度エンジンを停止させた後、宇宙空間の無重力・真空・極低温といった過酷な環境下で再びエンジンを始動させる能力が不可欠となります。RL-60がこの能力を備えていることは、その高い運用柔軟性を示しており、幅広いミッションへの適用可能性を広げます。

このように、RL-60はプラット・アンド・ホイットニーの持つ先進的な技術を結集し、高効率なLH2/LOX推進剤、信頼性の高いエキスパンダーサイクル、そして複数回再着火能力を組み合わせることで、将来の宇宙輸送ニーズに応えるべく開発されたエンジンと言えるでしょう。

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