RSD

RSD（Reichssicherheitsdienst、国家保安局）は、ナチス・ドイツ時代にアドルフ・ヒトラー個人を警護するために設立された特別な機関です。この組織は、警察や陸軍、さらには親衛隊（SS）にも属さない独立した国家機関として、ヨハン・ラッテンフーバーによって創設されました。ラッテンフーバーは、その後一貫してヒトラーの警護に専念しました。

ヒトラーがミュンヘンからベルリンに移り、ドイツ国首相として活動するようになった際、暗殺の危険を恐れて、信頼できる護衛隊を複数設立しました。その一つが、当初「Führerschutzkommando（総統護衛コマンド）」と呼ばれていた組織です。しかし、この組織は後に、ヒトラーだけでなく、ヘルマン・ゲーリングなどの党幹部の警護も担当するようになり、「Reichssicherheitsdienst（国家保安局）」に改名されました。

名称の変遷と訳語について

RSDは、その役割と性質から、様々な訳語が存在します。

護衛警察隊：橋本福夫訳（トレヴァ=ローパー『ヒトラー最後の日』）
帝国諜報部：松井ひろみ訳（オットマール・カッツ『ヒトラーと謎の主治医』）
公安局：小川真一訳（ウィル・ベルトルト『ヒトラーを狙った男たち』）
総統官邸警備隊：佐々洋子・鴻英良・貝沢哉訳（V.K.ヴィノグラードフ『ヒトラー最期の真実』）
国家保安局：広田厚司訳（広田『恐るべき欧州戦』）
秘密情報機関：足立ラーベ加代・高島市子訳（トラウデル・ユンゲ『私はヒトラーの秘書だった』）
帝国秘密情報機関：鈴木直訳（ヨアヒム・フェスト『ヒトラー 最期の12日間』）

これらの訳語は、RSDの多面的な性格を反映しており、組織の規模や活動内容に応じて、解釈が分かれていることを示しています。

任務と組織

RSDの主な任務は、ヒトラーおよび党幹部の警護、暗殺計画の捜査、そして被警護者の到着前の建物や人物の事前調査でした。隊員の採用条件は非常に厳しく、信頼できるナチ党員や親衛隊員、経験豊富な刑事警察官であることはもちろん、ヒトラー自身の厳しい審査を通過する必要がありました。特に、バイエルン州出身の刑事警察官が多く採用されたのは、ヒトラーが南ドイツ出身者に親しみを感じていたためとされています。

1935年2月13日時点でのRSDの組織構成は以下の通りでした。

ベルリン警視庁刑事：4名
内務省刑事警察：4名
従来の護衛隊（Führerschutzkommando）：15名（ヘルマン・ゲーリング、ルドルフ・ヘス、ヨーゼフ・ゲッベルス、ハインリヒ・ヒムラーの警護担当）
航空機操縦要員、ライプシュタンダルテ・SS・アドルフ・ヒトラー：31名

歴史と活動

第二次世界大戦が始まると、ヒトラーは前線近くに複数の指揮所（総統大本営）を設け、その警護もRSDの重要な任務となりました。ヒトラーの滞在先には必ずRSDの分署が設置され、ベルリンの総統官邸、ベルヒテスガーデンのベルクホーフ、東プロイセンのヴォルフスシャンツェなどがその例です。

また、前線近くでの活動のため、国防軍最高司令部との取り決めにより、RSDの警護員は国防軍将校の階級を与えられ、任務遂行に必要な場合は国防軍の将兵や装備を自由に利用できる権利が与えられました。このため、1939年からは正式名称が「Reichssicherheitsdienst Gruppe Geheime Feldpolizei z.b.V.（RSDの特別任務のための秘密野戦警察部隊）」となりました。

RSDが注目される出来事の一つとして、ベルリンの戦いにおけるハインリヒ・ヒムラーの降伏交渉があります。降伏に消極的なヒムラーの総統官邸代理人、ヘルマン・フェーゲラインをベルリン市内の自宅から拘引したのは、総統官邸詰めのRSD副指揮官であるペーター・ヘーグル刑事部長でした。フェーゲラインは、ヒトラーの妻となるエヴァ・ブラウンの妹の夫であり、逮捕後、即決裁判で処刑されました。

参考文献

Gordon Williamson, German Military Police Units 1939-45, Osprey, 1989, ISBN 0-85045-902-8

関連項目

総統警護隊
秘密野戦警察
* シークレットサービス

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