S&W M59

スミス&ウェッソン モデル59 (S&W M59)

スミス&ウェッソン モデル59は、アメリカ合衆国の銃器メーカーであるスミス&ウェッソン（S&W）社が1971年に市場に投入した自動装填式拳銃です。このモデルは、同社が1954年に開発したモデル39（M39）を改良発展させたもので、特に弾倉の構造を単列から複列へと変更することで、装弾数を大幅に増加させた点が最大の特徴です。M39の8発に対し、モデル59では14発という当時としては画期的な装弾数を実現しました。生産は1982年に完了しており、現在のアメリカ国内で日常的に目にすることは稀になりましたが、M39と共にアメリカの近代拳銃史における重要な位置を占めるモデルとして高く評価されています。最終的に約23万1841丁以上が製造されました。

なお、本銃の正式な製品名称は「Model 59」です。S&W社では通常、モデル名に「M」という略称を用いることはほとんどありませんが、日本の銃器専門誌を除く一般的な表記ではしばしば「S&W M59」として広く認識されています。資料によっては「No.59」と記される例も見受けられます。

開発経緯

モデル59の開発は、M39の派生型開発に端を発します。ベトナム戦争が進行していた時期、アメリカ海軍からの特殊部隊向け拳銃の開発依頼を受け、S&W社はM39にサプレッサー（消音器）を装着可能としたMk 22 mod0を開発しました。その後、1968年には海軍からこのMk 22の装弾数を増やすことに関する打診があり、これに応じる形でS&W社は装弾数増加型の試作モデルを提出しました。この試作モデルは最終的に軍には採用されませんでしたが、その設計思想と技術が活かされ、改良が加えられた後に一般市場向けの製品として1971年に発売されたのが、このモデル59です。

設計の特徴

モデル59の基本設計は、先行モデルであるM39の構造を踏襲しています。しかし、最大の変更点である複列弾倉を収容するために、グリップ部分がM39よりも太くなっています。これにより、装弾数はM39の8発から14発へとほぼ倍増しましたが、フレームに軽量なアルミニウム合金を採用したことで、銃全体の重量増加は約230グラム程度に抑えられています。スライド部分はM39と共通の部品が使用されており、その左側面には、手動式の安全装置（マニュアルセフティ）と、撃鉄を起こした状態から安全に下ろすためのデコッキングレバーが一体化されて配置されています。さらに、安全機能としてマガジンセフティが備わっており、弾倉が銃から取り外された状態では、引き金を引いても撃発しない構造となっています。

運用と評価

シングルアクションとダブルアクションの両方で撃発できる機能と、多弾数の複列弾倉を組み合わせたモデル59のスタイルは、その後の自動拳銃の主流となる、いわゆる「ワンダーナイン」（9mmパラベラム弾を使用し、多弾数複列弾倉を備えた自動拳銃の総称）の先駆けとして位置づけられます。発売当時としては、その14発という装弾数は非常に心強いアドバンテージであり、評価されました。一方で、当時の技術的な制約からか、トリガー機構の設計が旧式であったため、引き金を引いた際の感触については改善の余地があるという評価も見られました。比較的高価な価格設定であったにもかかわらず、アメリカ合衆国シークレットサービスが正式装備として採用したり、多くの警察官が公務用として私費で購入するなど、商業的には安定した成功を収めたモデルと言えます。その革新的な設計思想は、その後の多くの自動拳銃、特に多弾数化のトレンドに大きな影響を与えました。

今日、モデル59はすでに生産が終了し、最新の設計基準から見れば過去の銃となりましたが、その歴史的意義と、多弾数自動拳銃の普及に果たした役割は、アメリカ銃器史において特筆されるべき功績として語り継がれています。

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