S-BASIC

S-BASIC（エスベーシック）は、シャープの8ビットパーソナルコンピュータ、MZシリーズに標準添付されていたBASICです。当時、多くのパーソナルコンピュータではMicrosoft系のROM-BASICが本体に内蔵されていましたが、MZシリーズはシステムをROMとして持たない設計であったため、S-BASICはテープメディアで本体に標準添付されていました。

S-BASICは、グラフィックス描画命令など、本体に搭載されている機能をほぼ全て利用することができました。しかし、同時期のMicrosoft BASICと比較すると、文字列操作用の関数などの機能が弱く、予約語も少なかったため、同等の処理を行うためにはサブルーチンに分割する必要があるケースもありました。

一方で、予約語の少なさゆえに、マイクロソフト系のBASICに比べて単純な動作についての実行速度は速く、変数は逐次処理されることから、他のBASICの処理系に見られるガベージコレクションは存在せず、フリーエリアも多く取れる傾向にありました。ベースとなる命令セットは、初代機であるMZ-80Kに影響を与えたPET 2001に由来するものです。

音程を制御するMML（Music Macro Language）の文法もMicrosoft系の多くが採用したものとは異なり、音長を0～9の引数で渡し、連符の表現はできないものでした。単精度浮動小数点演算など基本的な命令セットに加え、倍精度演算、カラー表示対応、漢字表示対応などの機能拡張されたBASICや、QD（Quick Disk）、ミニフロッピーディスクに対応したDISK-BASICなどもシャープから別途供給されていました。

特筆すべき点として、MZ-80B/MZ-2000シリーズに搭載されていたフルロジックコントロールデータレコーダの制御命令を装備していたことが挙げられます。これにより、プログラム上から必要なデータの頭出しを行うことが可能になり、ユーザーからは「TOS（Tape Operating System）」とも呼ばれました。この機能は、データレコーダーを用いたプログラムの読み込みやデータ保存を効率化しました。

X1でHu-BASICが標準BASICとして採用された後、MZ-2500シリーズでは、シャープ独自の文法に則ったBASIC（BASIC S25）のほかに、Microsoft BASICライク（正確にはN88-BASICライク）な文法のBASIC（BASIC M25）が付属していました。このBASIC M25はハドソン製ではありませんでした。純正以外にも、バイナリパッチを当てて機能を拡張した亜種のBASICも販売されていました。

なお、S-BASICという名称が正式に登場したのはMZ-700からで、これはMZ-700にはS-BASIC以外にHu-BASICが同梱されていたためです。それ以前は「SHARP BASIC」という名称で呼ばれていました。

主なS-BASICの種類は以下の通りです。

SP-5030 (MZ-80K/C/K2/K2E/1200用)
SB-5520 (MZ-80B/B2用)
SB-6520 (MZ-80B系用DISKBASIC)
1Z-007B (MZ-700 S-BASIC)
5Z-001 (MZ-1500用)
MZ-1Z001 (MZ-2000用)
* MZ-6Z001 (MZ-2500 BASIC S25)

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