SAボクシング

「SAボクシング（エスエーボクシング）」は、1999年に日本の格闘技団体である掣圏道協会（Seikendo Association）によって創設された、独自の競技形式を持つ格闘技プロモーションです。その名称に「ボクシング」という言葉を含んでいますが、一般的なボクシングルールとは一線を画し、多岐にわたる攻撃や技術が認められている点が大きな特徴でした。

この興行は、設立された1999年から精力的な活動を展開しました。まず、同年7月10日には北海道旭川市にある旭川市総合体育館で、その幕開けとなる旗揚げ興行を開催し、SAボクシングの存在を世に示しました。続いて、同年10月2日には、日本の格闘技イベントの主要会場の一つである東京の有明コロシアムへと舞台を移し、「1999 WORLD BATTLE in JAPAN」と銘打たれた大規模な大会を実施しました。この有明での大会は、SAボクシングにとって極めて重要な意味を持ち、各階級の初代王者を決定するトーナメントやスペシャルマッチが組まれました。

特に注目されたのは、同大会で行われた各階級の初代王座決定戦でした。ここで初代王者として栄冠を手にしたのは、以下の選手たちです。彼らは全員、格闘技大国として国際的に知られるロシア出身の強豪選手でした。

スーパーヘビー級（体重95kg以上）: アンドレイ・キルサノフ
ヘビー級（体重95kg以下）: スルタンマゴメドフ・カフカズ
ライトヘビー級（体重86kg以下）: トカレフ・ワジム
ミドル級（体重78kg以下）: グスニエフ・アブドゥラフ

この結果は、設立当初のSAボクシングにおいて、ロシアをはじめとする海外勢、特にロシア人選手がその実力の中核を担っていたことを如実に示しています。

SAボクシングの競技ルールは、既存の打撃系格闘技や総合格闘技の要素を組み合わせつつも、独自のバランス感覚が取り入れられていました。試合は立った状態であるスタンディングから開始され、この状態ではボクシングの主要な攻撃手段であるパンチに加え、キック技や相手を倒すための投げ技も有効な攻撃手段として認められていました。これは、純粋なボクシングとは異なる、より多様な攻防を可能にするルール設計でした。

一方、試合がマットに倒れた状態、いわゆるグラウンドの攻防に移行した場合、有効な攻撃手段はパンチによるもののみに限定されていました。一般的な総合格闘技で許容されている相手の関節を極める関節技や、頸部を締め上げる絞め技などは、SAボクシングのルールでは禁止されていました。この「グラウンドでの打撃（パンチ）限定」というユニークな規定は、SAボクシングの試合展開に独特の特色を与えていました。

試合時間とラウンド構成も明確に規定されていました。1ラウンドは3分間で行われ、各ラウンド間には1分間のインターバルが設けられていました。一般的な公式戦は3ラウンド制で争われていましたが、ランキング上位に位置する実力者同士による試合では、より長い戦いを見越して4ラウンド制が採用されました。そして、団体の最高峰タイトルを争うタイトルマッチは、最も長く過酷な戦いとなる5ラウンド制が基本とされていました。なお、前述の初代王者決定戦については、出場選手が皆ランカー（ランキング上位者）という位置付けであったため、4ラウンド制で実施されました。

選手の安全を考慮し、一部の危険な行為は厳格に禁止されていました。具体的には、相手の視覚を奪う可能性のある目潰し、人体の中でも急所である金的への攻撃、身体の関節を不自然な方向に曲げる関節技、硬い部位である肘を使った打撃（肘打ち）、そして頭部による打撃（頭突き）などが明確な反則技として定められていました。これらの反則行為を行った選手には、審判の判断により警告や減点、悪質な場合には失格といった措置が取られることになっていました。

SAボクシングは、1999年という短い期間に集中的な活動を展開し、その独自のルールとロシアをはじめとする海外強豪選手の参戦により、日本の格闘技界に一石を投じました。設立初年度に初代王者を決定する大会を開催するなど、その試みは記憶に残るものですが、提供された情報からは、その後の活動がどの程度継続されたのか、詳細を知ることはできません。しかし、立った状態でのパンチ、キック、投げ、そして寝た状態でのパンチのみというルールは、日本の格闘技史におけるユニークな実験の一つであったと言えるでしょう。

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