SAOCOM

SAOCOM（サオコム）

SAOCOM（SAtélite Argentino de Observación COn Microondas）は、アルゼンチン共和国の宇宙開発を担う国家機関であるアルゼンチン宇宙活動委員会（CONAE）が主導する地球観測衛星プロジェクト、およびその衛星シリーズの名称です。この計画の主要な目的は、特にアルゼンチンの農業分野における土壌水分量の詳細なマッピングを行うこと、そして災害発生時の迅速な状況把握と管理に貢献することにあります。

SAOCOMシリーズは、SAOCOM 1AとSAOCOM 1Bという、同型の高性能衛星2機で構成されています。これらの衛星の最も重要な観測機器は、Lバンド帯域の電波を用いる全偏光測定合成開口レーダー（SAR）です。SARは、光学センサーとは異なり、昼夜や天候（例えば雲）の影響を受けることなく地表を観測できるという大きな利点を持っています。中でもSAOCOMに搭載されたLバンドSARは、比較的波長が長いため、植生を透過して地表面や土壌の情報を捉えやすい特性があります。また、「全偏光測定」機能により、電波の様々な偏波状態を利用して観測することで、地表の構造や材質に関するより豊富で詳細な情報を得ることが可能です。

本シリーズは当初、SAOCOM 1Aが2010年、SAOCOM 1Bが2011年の打ち上げを目指して計画が進められていました。しかしながら、衛星本体および搭載機器の開発プロセスにおいて遅延が生じたため、打ち上げスケジュールは複数回見直されることとなりました。開発の遅れを経て、最終的にSAOCOM 1Aは2018年10月8日（現地時間）、そしてSAOCOM 1Bは2020年8月30日（現地時間）に、それぞれ米国カリフォルニア州のバンデンバーグ宇宙軍基地から、米国の宇宙企業スペースX社が開発・運用する信頼性の高いファルコン9ロケットによって宇宙へと送り出されました。

2機のSAOCOM衛星が軌道上で連携して運用されることにより、特定の地域に対する観測頻度が高まります。これにより、農業における季節ごとの変化の追跡、洪水やその他の災害発生時の被害状況のモニタリング、水資源管理、森林や氷河の監視など、多岐にわたる分野での応用が可能となります。SAOCOMプロジェクトは、アルゼンチン自身の宇宙技術能力の向上に貢献すると同時に、地球環境のモニタリングと管理のための貴重なデータを提供しています。

SAOCOM衛星が取得する高分解能SARデータは、土壌水分マップ作成の精度を飛躍的に向上させ、農家がより効果的な灌漑計画を立てるのに役立ちます。また、自然災害発生時には、浸水域の特定、建物の損壊状況の評価、インフラの被害状況の把握など、迅速な救援活動や復旧計画立案のための重要な情報源となります。このように、SAOCOMシリーズはアルゼンチン国内だけでなく、世界の地球観測コミュニティにおいても重要な役割を果たしています。

計画の遅延はあったものの、2機のSAOCOM衛星の成功的な打ち上げと運用開始は、アルゼンチンにとって宇宙からの地球観測能力を大きく強化する画期的な出来事でした。これらの衛星からのデータは、科学研究、環境モニタリング、そして社会経済的な応用において、今後長きにわたり活用されていくことが期待されています。

もう一度検索