SAP HANA

SAP HANAとは

SAP HANA（エスエイピー ハナ）は、ドイツのソフトウェア企業SAP SEが提供する、カラムストア指向のリレーショナルインメモリデータ処理プラットフォームです。狭義にはインメモリデータベース機能を指しますが、広義にはアプリケーション実行環境や開発環境を含むプラットフォーム全体を指します。

概要

SAP HANAは、全てのデータをメモリ上に保持することで高速なデータ処理を可能にする、企業向けのインメモリデータベース製品です。基幹システムや情報系システム、研究データ解析、スポーツ分析など、幅広い分野で活用されています。

提供形態は、パブリッククラウド版、プライベートクラウドのマネージドサービス版、そしてオンプレミス版があります。

SAP HANAは、SAPの創業者の一人であるハッソ・プラットナーが設立した「ハッソ・プラットナー・インスティテュート」で学生らと共に発案されました。近年、情報システムがビジネスに深く浸透するにつれて、ERPなどの業務アプリケーションが多機能化し、企業内では複数のシステムやデータベースが乱立する状況でした。SAP HANAは、こうした複雑化したシステム群をシンプル化し、ボトルネックを解消するために、複数の業務アプリケーションに跨るデータをリアルタイムに処理する目的で開発されました。

SAPでは、SAP HANAを中核製品と位置づけ、SAP S/4HANAやSAP BW/4HANAなど、SAP HANA上での利用を前提としたアプリケーションを提供しています。しかし、SAP HANAはSAP製のアプリケーションだけでなく、一般的なリレーショナルデータベースと同様に、他ベンダーのアプリケーションも実行可能です。

2020年5月時点で、世界で32,000社以上（社名公表に同意した顧客数）での稼働実績があります。

特徴

インメモリデータベース

SAP HANAの最大の特徴は、データをメモリ上に保持することです。これにより、ハードディスク上で動作する従来のリレーショナルデータベースと比較して、10倍から10万倍の高速なデータ処理を実現します。SAP HANAは、メモリ上でのデータ処理に最適化されたアーキテクチャを採用しており、競合製品のインメモリオプションと比較しても、3倍以上の高速処理が可能であるとされています。

カラムストア指向

SAP HANAは、カラムストア（列指向）のリレーショナルデータベースです。SQLで操作でき、カラムストア型であるため、メモリ使用率や検索アルゴリズムの効率化が図られています。カラムストア型テーブルの使用が推奨されますが、オプションとしてローストア型テーブルの作成も可能です。

データサイズ圧縮

カラムストア型テーブルの採用により、データの圧縮に優れています。従来のローストア指向（行指向）のリレーショナルデータベースと比較して、必要な保存領域を小さく抑えることができます。

並列処理対応

マルチコアプロセッサに対応しており、アプリケーションからのリクエストに基づき、複数のCPUに処理を分散させることで、高速なデータ処理を可能にしています。

非構造化データ対応

従来のリレーショナルデータベースではテーブル構造化されたデータしか扱えませんでしたが、SAP HANAではNoSQLデータベースのように非構造化データの処理に対応し、テキストマイニング、地理空間情報、グラフ構造データの処理が可能です。

DWHエンジン搭載

ディメンショナルモデル（多次元モデル）の実装に対応しており、データウェアハウス（DWH）として利用できます。これにより、OLTPとOLAPの両方を単一のプラットフォームで処理できます。また、既存のデータベースからデータを取り込むためのETL機能も搭載されているため、サードパーティー製ETL製品を別途購入する必要はありません。

アプリケーションプラットフォーム

アプリケーションサーバー機能を備えており、3-Tierアーキテクチャだけでなく、2-Tierシステムの構築にも対応しています。これにより、開発期間の短縮やコスト削減が可能です。SAP HANA上で稼働するアプリケーション開発環境として、クラウドベースの開発環境やEclipseベース、Webブラウザベースの統合開発環境（IDE）が提供されています。

マルチテナント対応

クラウド環境での利用を想定したマルチテナント機能をサポートしています。テナント間でデータ、ユーザー、ハードウェアリソースを分離しつつ、単一のシステムとして管理できます。異なるSAPシステムを一つのHANA上で稼働させたり、開発環境と検証環境を同居させたりできます。マルチテナント機能は、SP9以降で使用可能です。

ビッグデータツール連携

HadoopやRといったビッグデータ処理プラットフォームやツールとの連携が可能です。

動作環境

SAP HANAはLinux環境のみで動作し、Red Hat Enterprise LinuxとSUSE Linux Enterprise Serverがサポートされています。

SAP認定の専用サーバー（アプライアンス）でのみ稼働し、IBM、HP、ユニシス、デルなどのサーバーベンダーから提供されています。また、富士通、日立製作所、NECなどの日系ベンダーも製造・販売しています。

アプライアンスの代わりに、SAPが提供するプライベートクラウドプラットフォームサービス「SAP HANA Enterprise Cloud」を利用することもできます。

さらに、SAPはマルチプラットフォーム戦略を推進しており、Amazon Web Services、Google Cloud Platform、Microsoft Azureなどの主要なパブリッククラウドサービスでも利用可能です。

無償試用版

ノートPCやデスクトップPC上でオフラインで実行可能な「SAP HANA, express edition」が無償で提供されています。Red Hat Enterprise LinuxやSUSE Linux Enterprise Server上で利用可能なほか、仮想マシンイメージをダウンロードしてWindowsやMacにインストールできます。Amazon Web Services（AWS）などのクラウドプラットフォームでも利用可能です。ただし、試用版は最大メモリサイズが32GBに制限されています。

認定資格

SAPは、SAP HANAの知識やスキルを持つエンジニアやコンサルタント向けに、SAP認定コンサルタント資格を設けています。所定の研修コースを修了し、試験に合格することで申請できます。日本では、テクノロジーコンサルタント、アプリケーションコンサルタントなどの分野で認定資格が存在します。

脚注

SAPジャパン
SAP Cloud Platform
SAP Leonardo

外部リンク

SAP HANA
SAP HANA Cloud Platform
openSAP

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