SEQUENCE MEDITATION

『SEQUENCE MEDITATION』（シークエンス・メディテーション）は、アーティストaccessが1994年後半に発表した楽曲三部作、すなわち「DRASTIC MERMAID」「SCANDALOUS BLUE」「TEAR'S LIBERATION」のイメージと深くリンクした小説およびコミック作品群です。これらの楽曲やミュージックビデオの世界観と物語が綿密に結びついており、単なるタイアップの枠を超えた展開を見せました。物語の中心となる人気音楽ユニット「EXAS（エクサス）」は、accessのメンバーである貴水博之氏と浅倉大介氏をモデルとしています。

作品は、角川書店発行の雑誌『CIEL』や『小説ASUKA』にて連載され、それぞれ単行本が小説・コミック共に1巻ずつ刊行されました。内容はボーイズラブ（BL）であり、当時、メジャーなアーティストの公式企画としてBL作品が展開されることは非常に画期的で、異例の試みとして注目を集めました。

物語を手掛けたのは、小説版の執筆とコミック版の原作を朝霧遥氏が担当し、美濃みずほ氏が小説版の挿絵とコミック版の作画を担当するというタッグでした。興味深いことに、朝霧遥氏は前述のaccess楽曲三部作を含む、浅倉大介氏の手がける多くの楽曲で作詞を担当した作詞家・井上秋緒氏と同一人物であり、さらにaccessの当時のプロデューサーである井上哲生氏の夫人でもありました。このように、作品世界のクリエイターがアーティスト本人やその関係者と密接な繋がりを持っていたことも、『SEQUENCE MEDITATION』のユニークな点と言えます。

物語は、人気絶頂の音楽ユニットEXASを舞台に展開されます。ボーカルの藤水貴之は、長年の相方であるキーボーディストの麻倉涼介に対し、仕事上のパートナーシップだけではない、特別な感情を抱き始めます。当初はその感情が何であるか戸惑う貴之でしたが、それが「恋」であることに気づき、男性同士であるという現実との間で激しい葛藤を抱えます。しかし、涼介との関係性におけるある出来事をきっかけに、彼は自身の気持ちを抑えきれなくなり、遂に涼介にその想いを告白することとなります。

作品は小説版とコミック版で展開されましたが、それぞれに内容の違いが見られます。物語はどちらの媒体でも一貫して主人公である藤水貴之の一人称視点で描かれます。小説版は、貴之の内面描写がより深く掘り下げられ、葛藤や悩みが細やかに表現されています。また、やや過激な性的描写やコメディタッチのシーンも含まれていました。一方、コミック版はよりシリアスなトーンを目指し、小説版にあった涼介の冗談や貴之が一人思い悩む場面の多くがカットされています。登場人物の面でも差異があり、小説版に登場する涼介の幼馴染である霞や、EXASのサポートメンバーなどはコミック版では登場しません。さらに、二人が想いを告白するシーンの描写や、物語の結末についても大きな違いがあり、小説版がバッドエンドであるのに対し、コミック版はハッピーエンドで締めくくられています。これらの違いは、媒体ごとの表現の自由度やターゲット層の違いを反映したものと考えられます。

主要な登場人物はEXASの二人に加え、彼らを取り巻く人々です。

藤水貴之（ふじみたかゆき）: EXASのボーカルで、本作の主人公。「タカ」の愛称で親しまれています。モデルはaccessの貴水博之氏。感情が表情に出やすい性格で、涼介には考えていることをすぐに見抜かれてしまいます。過去にジュリカという女性と交際していましたが、涼介への恋愛感情に気づいてからは自身のセクシュアリティに苦悩します。貴水氏本人は、自身の「三枚目」な部分がよく描かれていると評しています。
麻倉涼介（あさくらりょうすけ）: EXASのキーボーディスト。「涼ちゃん」の愛称も。モデルはaccessの浅倉大介氏。皮肉屋で、常にタカをからかっています。作中ではその容姿から「少女漫画に登場しそうな美少女」と形容されることも。タカの心中を正確に読み取る洞察力を持っています。過去に事務所社長の風間と関係があったようです。モデルである浅倉大介氏の一人称は「ボク」ですが、キャラクターは「オレ」を使用しています。
風間瞬（かざましゅん）: EXASが所属する芸能事務所の社長。同性愛者であり、涼介とは過去に関係がありました。EXASをあまり好ましく思っていません。
阿部舞子（あべまいこ）: EXASのマネージャー。「アベちゃん」と呼ばれます。モデルはaccessの実際のマネージャー、安部裕子氏。作中では、タカと涼介の関係進展に「夢とロマンを感じる」と発言し、タカを困惑させます。
井上一哲（いのうえいってつ）: EXASのプロデューサー。モデルは作者の夫でありaccessのプロデューサーである井上哲生氏です。
ジュリカ: タカの元交際相手であるモデル。ハーフでウェーブヘア。涼介を怪我させてしまい、結果的にタカの涼介への想いが強まるきっかけを作ります。わがままな一面もありますが、根は素直で、謝罪もできる人物です。
* 霞（かすみ）: 涼介の幼馴染。周囲からは恋人同士と思われていましたが、実際は恋愛関係ではなく、お互いを必要とする特別な関係でした。タカと涼介が結ばれたことを知り、二人の関係を静かに見守るようになります（コミック版には未登場）。

『SEQUENCE MEDITATION』は、accessの音楽と連動したメディアミックス作品であること、そしてアーティスト自身をモデルとしたキャラクターによるBL作品を公式に展開したという点で、日本の音楽業界や出版業界においても特異な位置を占めています。藤水貴之と麻倉涼介、二人の関係性の変化と、それに伴う主人公の内面的な成長と葛藤が物語の核心をなし、読者に強い印象を残しました。

また、朝霧遥氏と美濃みずほ氏は、『SEQUENCE MEDITATION』のEXAS結成以前の物語を描いた前日譚『Protonics』（小説2巻、コミック1巻）も手掛けており、EXASというユニットのバックグラウンドがより深く描かれています。これらの作品群は、accessの音楽を愛するファンにとっては、楽曲世界をより立体的に捉えるための副読本としても機能し、また、BL作品として新たな読者を獲得する契機ともなりました。

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