SPINNING KITE

映画『SPINNING KITE』（スピニングカイト）は、2011年に製作され、2013年に劇場公開された日本の作品です。千葉県木更津市を舞台に、パンク・ロックバンドを組む4人の若者たちの友情、葛藤、そしてそれぞれの十年後の姿を追った青春群像劇として描かれます。

制作背景と物語の始まり

本作の制作は2011年に行われ、公開は2年後の2013年でした。撮影は大きく分けて夏と冬のパートがあり、エンディングロールではスタッフの一部が異なることが示唆されています。夏編のクライマックスは地元の港まつり、冬編は作中に登場するバンドELBOWの公演が中心となっています。しかし、映画全体としては2部構成という形式ではなく、連続した一つの物語として提示されます。

物語の舞台は、東京湾アクアラインの完成を間近に控えた木更津の街。中学時代からの旧友である純（中村倫也）、文次（内野謙太）、城戸（伊藤友樹）、真木（醍醐直弘）の4人は、地元でパンクバンドを組んで活動しています。彼らの当面の目標は、地元の大きなイベントである「港まつり」でのライブを成功させることでした。しかし、19歳という年齢を迎え、それぞれの若者を取り巻く環境は多様で、彼らは将来に対する不安や現実の厳しさに直面していきます。

それぞれの葛藤と岐路

メンバーそれぞれが抱える問題は深刻です。ボーカルの純は予備校生ですが、厳格な父親からいつまでも将来を見据えない姿勢を厳しく責められています。ベースの文次はアクアリウム店でアルバイトをしていますが、立派に働いている兄からは疎まれ、関係がぎくしゃくしています。ギターの城戸は母子家庭で、母親がスナック勤めという境遇からか、悪い仲間との関係を断ち切れずにいました。ある日、行きつけの食堂で因縁の相手と遭遇し、一触即発の事態となります。ドラムの真木はモヒカンスタイルが特徴的ですが、幼い弟がいる母子家庭であり、木工業だった父親を亡くしています。家計を支える母親を案じ、自身の将来について深く悩んでいました。

状況は次第に悪化します。真木の母親が過労で倒れてしまい、真木は家計を助けるため、港まつりを前にしてバンドを辞め、ペンキ屋の修行をするために都会へと旅立ちます。一方、一見堅実に見えた純の家族にも影が差し込みます。妹からの指摘で、母親が夫に隠れて喫煙や飲酒をしており、疲弊している様子が明らかになります。純は心の揺れを象徴するかのように、ある家の屋根の上で絡まっている凧（カイト）に目を留め、その家の住人を押し退けて無断で屋根に上がり、凧を風になびかせます。文次は合コンで出会った女性とななせと同棲を始めますが、彼女の妊娠が発覚し、新たなプレッシャーを抱えることになります。港まつりでの演奏に向かう途中だった城戸は、昔の仲間に囲まれて暴力事件を起こし、警察に逮捕されたまま行方をくらましてしまいます。

港まつり、そして未来へ

主要メンバーのうち城戸と真木を欠いた状況で、港まつりでのライブは純と文次、そしてサポートメンバーによって敢行されます。なんとかライブは盛り上がり、港まつりは幕を閉じました。

行方をくらましていた城戸は、結局逃げた先の東京で新たな音楽バンド「ELBOW」に参加し、成功を収めます。木更津での凱旋公演が予定されるほどになりましたが、彼は薬物に溺れ、身を崩していました。その「ELBOW」の会場には、真木と文次の姿がありました。彼らは開演を待っていましたが、かつての仲間である純は会場に入るのをためらっています。文次は、兄から手渡された20万円で彼女と別れ、実家に戻るよう促されますが、それを断り、一人で立ち上がる決意を固めます。

物語は数年後へと飛びます。黒髪になった3人（純、文次、真木）は再会し、地元の友人の結婚式の二次会と思われる会場で、心からの笑顔でバンド演奏を披露するのでした。

キャストとスタッフ

主要なバンドメンバーとして、ボーカルの純を中村倫也（公開当時の名義は中村友也）、ベースの文次を内野謙太、ギターの城戸を伊藤友樹、ドラムの真木を醍醐直弘が演じています。その他にも、純の父を田中隆三、文次の兄を山中崇、真木の母をかわいのどか、ラーメン食堂店主を鈴木一功、女将を山口詩史が演じるなど、個性的なキャストが出演しています。監督と脚本は加瀬聡が手掛け、音楽は風味堂の鳥口将哉が担当しました。テーマソングにはLAUGHIN' NOSE|LAUGHIN'_NOSEの「PARADISE」が使用されています。

国内外での評価

『SPINNING KITE』は国内外の映画祭で高い評価を受けました。SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2011で国際長編コンペティションにノミネートされたほか、Canada International Film Festival 2012でのAward of Excellence（優秀作品賞）、21st Arizona International Film FestivalでのBest Foreign Feature（最優秀外国語作品賞）、MEXICO INTERNATIONAL FILM FESTIVAL AND AWARDSでのGolden Palm Winners（パルムドール金賞）など、数々の賞を受賞しています。また、Riverside International Film FestivalやJapan Filmfest Hamburgなど、多くの海外映画祭で公式上映されました。日本国内でも、第28回高崎映画祭の若手監督の現在部門で上映されるなど、注目を集めた作品です。

若者たちが厳しい現実に打ち当たりながらも、友情を支えにそれぞれの道を進み、再び集結する姿を描いた本作は、青春の光と影、そして再生への希望を感じさせる感動作です。

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