SYMPATHY (ARBのアルバム)

SYMPATHY

『SYMPATHY』は、日本のロックシーンにおいて独自の軌跡を描いてきたARBが、1989年11月8日にリリースした通算12枚目のスタジオ・アルバムです。本作は、バンドが最初に活動を休止する直前に発表された、記念すべき最後のオリジナル作品となりました。このアルバムは、当時の社会情勢やメンバーの心境を反映した、強いメッセージ性を内包しています。

アルバムを語る上で特筆すべきは、先行シングルとして発表された楽曲「MURDER GAME」の存在です。この楽曲は、当時のヴォーカリストである石橋凌が、幼い命が理不尽に奪われた悲惨な事件に対し、深い憤りと悲しみを込めて書き下ろしたものです。しかし、そのあまりに生々しく、特定の事件を想起させる歌詞の内容が論議を呼び、公共放送であるNHKでは放送が見送られるという措置が取られました。この事実は、当時のARBが単なるロックバンドとしてだけでなく、社会の矛盾や不正に対して真っ向から異議を唱える存在であったことを象徴しています。「MURDER GAME」は、社会の暗部を容赦なく切り裂くようなARBらしい楽曲であり、アルバム全体のトーンを決定づける重要な位置を占めています。

『SYMPATHY』には、「MURDER GAME」以外にも、バンドの多様な音楽性とメッセージが込められた楽曲が収められています。タイトル曲である「SYMPATHY」をはじめ、「ROCK THE GUERRILLA」、「URBAN FREEWAY」といった力強いロックナンバーから、「CLASSICAL HARMONY」、「ALL THE CHILDREN'S LOVE」、「SOUL TO SOUL」といった内省的、あるいは普遍的なテーマを扱った楽曲まで、幅広いサウンドアプローチが聴かれます。「一人ぼっちの世界」や「抵抗の詩」といったタイトルからは、当時のバンドが抱えていたであろう孤独感や反骨精神が垣間見えます。そして、最後に収められた「明日へのBOOGIE」は、活動休止を前にしてもなお、未来への希望を捨てないARBの力強い意志を感じさせる楽曲と言えるでしょう。

本作がARBの最初の活動休止前最後のオリジナルアルバムであるという事実は、作品に特別な重みを与えています。メンバーがこの時期にどのような思いで音楽と向き合っていたのか、そしてリスナーに何を伝えたかったのか。『SYMPATHY』は、そうしたバンドの最終章における創造性とエネルギーが凝縮された一枚と言えるでしょう。社会派としての側面と、人間的な感情を深く掘り下げた側面が共存しており、約30年以上の時を経てもなお、そのメッセージは色褪せることなく響き続けています。

収録曲

1. SYMPATHY
2. ROCK THE GUERRILLA
3. URBAN FREEWAY
4. MURDER GAME
5. CLASSICAL HARMONY
6. ALL THE CHILDREN'S LOVE
7. SCRAMBLE WORLD
8. GOLDEN TIME
9. 一人ぼっちの世界
10. NO EASY ROAD
11. SOUL TO SOUL
12. 抵抗の詩
13. 明日へのBOOGIE

このアルバムは、ARBのディスコグラフィーの中でも、特に社会との関わりや人間の尊厳について深く問いかけた作品として、重要な位置を占めています。

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