Sky (今井美樹のアルバム)

今井美樹の通算20作目となるオリジナルアルバム『Sky』は、2018年6月6日にVirgin Musicより発売されました。

本作の制作には、プロデューサーとして亀田誠治が迎えられました。レコーディングは日本の東京と、今井が当時生活していたイギリスのロンドンで行われ、ミキシングはエイドリアン・ブッシュビーが担当しています。アルバムに付けられたキャッチコピーは「PRIDEから20年。これはあなたのCDです」という印象的なフレーズでした。

このアルバムが誕生した背景には、今井がロンドンで暮らし始めてからおよそ6年が経過した時期の、自身の内面と向き合う姿勢がありました。制作に入る前、今井は作詞家たちに、ロンドンの空が持つ特別な美しさや、劇的に変化するその様子、そして空を見上げることで胸に去来する切なさや、時には前向きな気持ちにさせられるといった心情を伝えたと言います。その結果、作詞家たちが共通のインスピレーションを得たのでしょう、収録曲の制作が進むにつれて、「空」という言葉や、空を連想させる情景描写が多く詞の中に織り込まれていることに気づき、最終的にアルバムのタイトルが『Sky』に決定しました。

当時の今井は、ロンドンでの暮らしに重点を置くため、しばらく音楽活動から距離を置いていました。そのため、本格的にレコーディングを開始するにあたり、以前のようにスムーズにエンジンがかからない感覚があり、当初は思うように波に乗れないままスタートしたと感じていたと後に語っています。一方で、海外での生活は新たな視点をもたらしました。国境に関係なく、地球上のどこにいても同じ空が広がっているという事実に改めて気づかされ、それは世界が繋がっていることの象徴であると考えるようになりました。そして、海外で暮らすからこそ、自身の内にある日本人らしさをより強く意識し、向き合う機会が増えたと言います。

また、本作の制作期間にかけて、世界では悲しい出来事が多く発生していました。今井はそれらの出来事を決して忘れるのではなく、自分なりの形で記録に残しておきたいという強い思いを抱き、その表現手段として選んだのがやはり音楽でした。身近な現実として伝わってくる世界情勢の様々な問題に心を痛めながらも、今井は「国と国との間には実際には多くの見えない線が存在するけれど、その線の向こう側にも人々の暮らしがあり、笑顔がある。生きることは、本来すべての人にとって平等であるべきではないか」と感じていました。こうした深い考えや願いを、政治的なメッセージとして声高に叫ぶのではなく、音楽という形で静かに、しかし確かに記録として残しておきたい。アルバム『Sky』には、そうした世界や人々への願い、平和への思いが根底に流れているのです。このアルバムは、ロンドンの空を通して感じ取った個人的な感情と、広大な世界への視線が融合した、今井美樹にとって極めてパーソナルでありながら普遍的なメッセージを持った作品と言えるでしょう。

本作には全10曲が収録されており、それぞれの楽曲に今井の多層的な思いが込められています。タイアップ情報や詳細な楽曲リストは本稿では割愛しますが、アルバム全体を通して「空」というテーマが多様な形で表現されています。自身の置かれた環境や内面の変化、そして世界へ向けられる眼差し。それらすべてを包み込む「空」のように、本作はリスナーそれぞれの心に寄り添い、様々な感情を喚起させる奥行きを持っています。ロンドンでの生活を経て、アーティストとして、そして一人の人間として新たな地平を切り開いた今井美樹が届ける『Sky』は、まさに彼女のその時点での偽りのない姿を映し出した作品と言えるでしょう。

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