Song for U.S.A.

Song for U.S.A.：チェッカーズ最後の売野・芹澤コンビ作品とその背景

1986年6月5日、チェッカーズの11枚目のシングル「Song for U.S.A.」がリリースされました。この曲は、同名の映画主題歌として、そして第37回NHK紅白歌合戦で歌唱されるなど、同グループにとって重要な楽曲となりました。しかし、「Song for U.S.A.」は、単なるヒット曲以上の意味を持つ、数々の側面を秘めた作品なのです。

まず特筆すべきは、この曲が売野雅勇氏と芹澤廣明氏による作詞・作曲・編曲の最後の協同作品であったという点です。芹澤氏は後のインタビューで、チェッカーズというアイドルグループにおける創作活動の困難さ、そして自身の潮時を感じていたことを語っています。売れ続けることの難しさ、バンドとしてのアイデンティティと商業的な成功の両立、そしてネタの尽きることへの焦燥感…、これらの葛藤が、この楽曲制作の背景に垣間見えます。芹澤氏は「ダサい終わり方はしたくなかった」と発言しており、自身の音楽家としてのプライドと、チェッカーズへの深い愛情が感じられます。「Song for U.S.A.」は、単なる楽曲ではなく、一つの時代の終わりを象徴する作品だったと言えるでしょう。

さらに、この楽曲は、ボーカルの藤井郁弥氏による歌唱方法にも注目すべき点があります。音楽番組では、原曲よりもキーを下げて歌うことが多かったとされています。これは、藤井氏の表現方法、あるいは楽曲の持つ雰囲気をより深く表現するための工夫だったのかもしれません。

興味深いのは、文学者マーク・ピーターセン氏の指摘です。氏は著書「日本人の英語」（1988年、岩波新書）の中で、「Song for U.S.A.」のような、冠詞「the」を省略した表現が、日本で用いられることの異様さを論じています。この指摘は、日本の英語表現と、楽曲タイトルが持つ文化的背景について、新たな視点を与えてくれます。

シングルジャケットには「Song for U.S.A.」の下に「Last American Dream」という副題が記されていますが、これは正式なサブタイトルとして用いられたことはありません。この副題が持つ意味、そして意図は何だったのでしょうか？ 様々な憶測が生まれる余地を残している点も、この楽曲の奥深さを示唆しています。

そして2021年9月21日、チェッカーズデビュー38周年を記念して、この「Song for U.S.A.」のミュージックビデオが公式YouTubeチャンネルで公開されました。長年秘蔵されていた映像の公開は、多くのファンを歓喜させたことは言うまでもありません。

カップリング曲「WA WA WA」は、藤井郁弥氏の作詞、武内享氏の作曲、そしてチェッカーズによる編曲という、グループ内での制作体制を示しています。この曲は、「Song for U.S.A.」とは異なる魅力を持ち、チェッカーズというグループの多様な音楽性を垣間見ることができます。

「Song for U.S.A.」は、単なる一曲の楽曲ではなく、チェッカーズの歴史、そして日本の音楽シーンにおける一つの時代の転換点を象徴する、非常に意義深い作品と言えるでしょう。その背景にある様々な要素を理解することで、この楽曲への理解はさらに深まるはずです。

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