SyNAPSE

SyNAPSEプログラムについて

SyNAPSE（Systems of Neuromorphic Adaptive Plastic Scalable Electronics）は、アメリカ国防高等研究計画局（DARPA）によって推進されている一大プロジェクトであり、電子ニューロモーフィックマシン技術の革新を目指しています。このプログラムでは、哺乳類の脳に似た構造や機能を持つ新しいコグニティブコンピュータの開発を行い、人工脳とも呼ばれる高度な計算システムの構築を試みています。

このプロジェクトの重要な目標は、ニューロンとシナプスの接続性や数を基に、脳の構造を模倣したロボットにスマートな知能をもたらすことです。研究者たちはこの新しいテクノロジーを用いて、様々なアプリケーションに応じて知能を拡張するロボットやデバイスを開発できると期待しています。

プロジェクトの背景

SyNAPSEプログラムは多様な企業や研究機関が協力して運営しています。主な参加機関には、ヒューレット・パッカードやIBMリサーチ、HRLラボラトリーズなどがあります。プロジェクトは2008年に始まり、初期段階では多額の資金がDARPAから提供され、IBMとHRLはそれぞれ490万ドル、590万ドルの資金を受け取りました。その後もプロジェクトは順調に進み、さらなる資金提供が行われています。

プログラムの進捗

SyNAPSEプログラムの初期段階では、ナノメートルスケールの電子シナプスコンポーネントが開発され、実際のニューロン間の接続強度を調整できる能力が示されました。このシナプスコンポーネントは、神経系の構造を模倣し、システム全体のアーキテクチャを支える役割を果たしています。また、ハードウェアの開発はマイクロ回路やシングルチップシステムの設計に重点が置かれています。

さらに、ニューロモーフィック電子システムのシミュレーションも進行中で、設計者が投入したデータを基にした大規模なコンピュータシミュレーションを行い、実際の製品開発へとつなげています。加えて、仮想環境を使ってシミュレーションされたシステムのトレーニングやテストも行われ、リアルタイムでのデータ処理が可能になることを意図しています。

仕様と特徴

SyNAPSEの公開された製品には、クロックレス動作（イベント駆動）が採用されており、リアルタイム動作時の消費電力は70mWと非常に低く、電力密度も20mW/cm²に達しています。54億個のトランジスタがサムスンの28nmプロセス技術で製造され、これにより100万個のニューロンと2億5600万個のシナプスを備えた状態で、4096個のニューロシナプスコアにネットワーク化されています。
各コアモジュールはメモリ、計算、通信機能を統合しており、イベント駆動型の並列処理とフォールトトレラント機能を備えています。

参加機関と研究者

このプロジェクトには、多数の有名な大学や研究機関から専門家が参加しています。IBMチームは、ダルメンドラ・モダが率い、スタンフォード大学、コーネル大学、ウィスコンシン大学などからも多くの研究者がこのプロジェクトに貢献しています。HRLチームは、ナラヤン・スリニバサが指導しており、さらにボストン大学やミシガン大学など、多くの機関が協力しています。

関連する技術や項目

SyNAPSEプログラムとの関連性を持つ技術の一つに、IBM製のTrueNorthチップがあります。このチップは54億個のトランジスタと4096個のニューロシナプスコアを備え、脳の機能を模倣するために作られました。さらに、フォン・ノイマン・ボトルネックを回避する手段として、コンピュテーショナルRAMも注目されており、この分野の研究は続いています。

SyNAPSEは現代の計算技術を進化させる新たな道を切り開いており、将来的には脳の機能を再現することによって、人類にとって新しい知能の形をもたらす可能性があります。

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