TEMS

TEMS（テムス）とは、トヨタ自動車が開発した電子制御サスペンションシステムの名称です。「Toyota Electric Modulated Suspension」の略称であり、「トヨタ電子制御サスペンション」とも呼ばれます。このシステムは、コンピューター制御によって車両のショックアブソーバー減衰力を自動的、あるいは手動で切り替えることで、走行状況に応じた最適なサスペンション性能を発揮させることを目指しています。

開発と展開

TEMSは、積載条件が大きく変動しやすいワンボックス車のサスペンション課題への対応として誕生しました。従来のワンボックス車は、多人数乗車時の安定性を重視するあまり、少人数乗車時には乗り心地が硬くなる傾向がありました。TEMSは、減衰力を状況に応じて可変させることで、積載状態に関わらず乗り心地と安定性の両立を図る柔軟性を確保することをコンセプトに開発されました。

当初はワンボックスモデルへの採用が中心でしたが、その有効性が認められ、高級車やスポーツカーへと搭載車種を拡大。経済状況が良かった時期には、一部の大衆車にも設定されるほど普及しました。その後、 TEMSは高級モデルを中心とした設定に落ち着きましたが、システム自体の改良は継続され、ピエゾ式TEMSやスカイフックTEMS、インフィニティTEMSといった進化形が登場しています。近年では再び、ミニバンへの装備が増える傾向にあります。なお、レクサスブランドや一部のトヨタ車（例：13代目以降のクラウンなど）では、TEMSに代わって「AVS（Adaptive Variable Suspension System）」という名称が使われています。

システム構成と機能

TEMSシステムは、減衰力を電気的に調整する専用ショックアブソーバーを中心に構成されます。ショックアブソーバー内部のオリフィス（オイル通路）開口面積を変化させることで減衰力を調整し、これをアクチュエーターが行います。システム全体の制御は、各種センサーからの情報を受け取るコントロールコンピューターが行います。主なセンサーには、車速センサー、ブレーキ操作検出、アクセル開度、ステアリング舵角を測るものなどがあります。ドライバーはコントロールスイッチでモードを選択できます。

初期のシステムでは、減衰力は数段階に固定されていました。高級車向けの3段階式では「SOFT」「MID」「HARD」の3段階があり、伸び側と縮み側で実質6種類の減衰力。廉価版の2段階式では「SOFT」「HARD」の2段階（実質4種類）が設定されていました。コンピューターはセンサー情報やスイッチ操作を基にアクチュエーターに指示を出し、オリフィスの状態を切り替えて減衰力を変化させます。

走行モードと動作

TEMSは、走行状況に応じて減衰力を自動的に最適化する「AUTO」モードと、ドライバーが任意に設定するモード（主に「SPORT」）を備えています。

AUTOモード時の自動制御例:
通常走行: 低速域では「SOFT」寄りで快適性優先。
高速走行: 高速域では「HARD」寄りに切り替わり、安定性を向上。
ブレーキング: ブレーキ操作で自動的に「HARD」に切り替わり、ノーズダイブを抑制。解除後、一定時間で「SOFT」に戻ります。
加減速・コーナリング（3段階式など）: 急加速時やステアリング舵角が大きい場合に「HARD」に切り替わり、車体の沈み込みやロールを抑えます。
SPORTモード: ドライバーが選択すると、常に硬めの減衰力（「HARD」または「MID」）が維持され、スポーティな乗り味となります。

一部の改良型では、ダイヤル操作などでより多くの段階から減衰力を手動で選択できる機能も追加されました。

特徴と課題

TEMSの利点は、一つの車両で状況に応じて乗り心地と走行安定性のバランスを調整できる柔軟性にあります。しかし、課題も存在しました。一つは、専用ショックアブソーバーが高価であることです。標準品と比較して部品代が2倍から3倍になる場合もありました。

また、特に初期の2段階式システムでは、設定できる減衰力の幅が限られており、「SOFT」は柔らかすぎ、「HARD」は硬すぎると感じられることがありました。ユーザーに機能の違いを分かりやすく示すため、意図的に減衰力の差を大きく設定した結果とも言えます。この課題に対し、その後のシステムでは段階数を増やしたり、細やかな制御を導入したりすることで、より自然で幅広い調整範囲を実現する方向へと進化しました。

TEMSは、トヨタ車の乗り心地や走行性能に貢献した革新的な技術の一つと言えるでしょう。多くのトヨタ車に採用され、時代とともに改良が重ねられました。

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