TIME TUNNEL

角松敏生の6年ぶりオリジナルアルバム『TIME TUNNEL』：1999年の音楽的転換点

1999年1月21日、角松敏生12作目のスタジオアルバム『TIME TUNNEL』がリリースされました。1993年の活動凍結宣言以降、ベストアルバムやプロデュースワークに携わっていた角松敏生にとって、6年ぶりのオリジナルアルバムとなる本作は、音楽活動再開を象徴する作品と言えるでしょう。自身のレーベル「IDEAK」をBMG JAPAN内に設立し、リリースされたこのアルバムは、彼の音楽人生における重要な転換点となりました。

多彩な楽曲群とゲスト参加

『TIME TUNNEL』には、角松敏生の幅広い音楽性が反映されています。洗練されたサウンドとメロディー、そして奥深い歌詞は、聴く者を魅了する魅力に溢れています。アルバムには、沖縄のシンガーソングライター、下地暁とのデュエット曲「風のあやぐ」が収録されており、角松敏生にとって初の男性アーティストとのコラボレーションとなりました。この曲は、宮古島での出会いをきっかけに制作されたもので、両者の個性が融合した美しいハーモニーが印象的です。

また、先行シングルとしてリリースされた「Realize」は、アルバム収録に際しイントロダクションが追加されました。ライブでは、このアルバムバージョンが主に演奏され、ファンに親しまれる楽曲となりました。

一方、「崩壊の前日」は、1995年阪神・淡路大震災で被災した友人や、角松敏生自身にとって思い出深い神戸への想いを綴った楽曲です。この曲は、2007年のバラードベストアルバム『Players Presents TOSHIKI KADOMATSU Ballad Collection』で、山内薫によるサウンドプロデュースでリメイクされ、新たな魅力が加わっています。この震災をきっかけに、角松敏生は年末恒例のライブを東京だけでなく神戸でも開催するようになり、この曲が持つ特別な意味合いを改めて示しています。

さらに、アルバムには、CDパッケージや公式ウェブサイトのディスコグラフィーに記載のない隠しトラック「Unforgettable -Album Version-」が収録されています。シングルバージョンとは異なるアレンジが施されたこの曲は、アルバム全体の構成に独特の深みを与えています。

アルバム制作におけるこだわり

『TIME TUNNEL』の制作には、角松敏生の並々ならぬこだわりが見て取れます。楽曲制作はもちろんのこと、アルバムジャケットのデザインにも強い想いが込められています。渋谷スクランブル交差点を上空から撮影した写真と、角松敏生の姿が写されたジャケットは、時代の変化と彼の音楽的進化を象徴するかのようです。

また、コンサートツアー『TOSHIKI KADOMATSU 1999 TIME TUNNEL TOUR』の日程表がブックレットに添付されているのも、このアルバムが単なる音楽作品ではなく、一つのイベントとして位置付けられていたことを示唆しています。

豪華なスタッフ陣も大きな特徴です。ジェリー・ヘイや数原晋といった一流ミュージシャンが参加し、録音は東京、ロサンゼルス、ナッシュビルのスタジオで行われるなど、制作規模の大きさも印象的です。

まとめ

『TIME TUNNEL』は、単なる音楽作品という枠を超え、角松敏生というアーティストの歩み、そして当時の社会情勢までもが反映された、深い意味を持つアルバムです。その音楽性、制作背景、そしてジャケットデザインに至るまで、細部までこだわり抜かれた作品だからこそ、現在でも多くのリスナーを魅了し続けているのではないでしょうか。 このアルバムは、角松敏生の音楽における大きな転換期を示すだけでなく、1990年代後半の日本の音楽シーンを代表する作品の一つとして、高く評価されています。

もう一度検索