TOMORROW 明日

TOMORROW 明日：1945年8月8日の長崎、運命の24時間

1988年公開の日本映画『TOMORROW 明日』は、井上光晴の小説『明日―1945年8月8日・長崎』を原作とする戦争ドラマです。黒木和雄監督による戦争レクイエム三部作の第一作として知られ、1945年8月8日午前11時2分までの24時間を舞台に、長崎のひとつの家族の物語を丁寧に描き出しています。キネマ旬報ベストテン第2位にランクインするなど、高い評価を得ています。

物語の舞台：戦火迫る長崎

舞台となるのは、終戦間近の1945年8月8日、長崎です。アメリカ軍による原爆投下の影が忍び寄り、人々の生活は戦争によって大きく制限されています。そんな中、三浦家では次女ヤエの結婚式が行われます。華やかな祝いの裏で、家族一人ひとりがそれぞれの思いを抱え、運命の歯車が回り始めています。

三浦家の家族：それぞれの運命

三浦家には、妊娠中の長女ツル子、花嫁のヤエ、そして三女昭子の三姉妹がいます。それぞれの女性が抱える葛藤や、戦争によって引き裂かれる家族の絆が、繊細に描かれています。

長女ツル子は、結婚式当日に陣痛が始まり、翌朝、男児を出産します。難産でしたが、母子の命は守られました。次女ヤエは、夫となる庄治と幸せな結婚を誓い合った矢先、明日への不安を抱えます。三女昭子は、召集令状を受けた恋人の英雄から駆け落ちを持ちかけられますが、それを断ります。

家長である泰一郎と妻ツイは、それぞれの子供たちの未来を案じながら、変わりゆく状況を見守ります。ヤエの夫となる庄治は、製鋼所の工員として働いており、心に秘めた秘密を抱えています。

その他にも、多くの登場人物が登場し、それぞれのドラマが展開していきます。ヤエの同僚である亜矢は、妊娠3か月で恋人の藤雄と連絡が取れず苦悩しています。庄治の友人である石原は軍属として捕虜収容所で働き、戦争の残酷さを目の当たりにしています。

複雑に絡み合う人間模様

登場人物たちは、それぞれの立場や事情を抱えながら、複雑に絡み合った人間関係を築いています。結婚式の準備や、家族間の会話、そして戦争という現実が、それぞれの心の奥底にある感情を浮き彫りにします。

結婚式の写真を撮影する銅打夫婦、ツル子の出産を手助けする産婆、そして長崎電気軌道の運転手である水本夫妻など、多くの人々が結婚式に参列し、この家族の物語を彩ります。

迫り来る運命

物語は、結婚式という喜びの場から始まり、やがて戦争の影が濃くなってきます。登場人物たちは、自分たちの運命を悟りつつも、明日への希望を捨てずに生きています。

この映画は、戦争の悲惨さを直接的に描くのではなく、一家族の日常を通して、戦争が人々の生活に及ぼす影響を静かに、しかし力強く伝えています。

スタッフと受賞

監督は黒木和雄、プロデューサーは鍋島壽夫、脚本は黒木和雄、井上正子、竹内銃一郎が担当しました。撮影は鈴木達夫、美術は内藤昭、編集は飯塚勝、音楽は松村禎三が担当しています。

この作品は、芸術選奨文部科学大臣賞を受賞し、毎日映画コンクール美術賞（内藤昭）も受賞しています。

まとめ

『TOMORROW 明日』は、戦争の悲劇を直接描写するのではなく、一組の家族のありふれた日常を丁寧に描くことで、戦争の残酷さと人間の尊さを浮き彫りにした、忘れがたい名作です。登場人物たちの繊細な感情表現、そして終戦間近の長崎の街並みが美しく描かれており、観る者の心を深く揺さぶる作品となっています。

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