TransferJet

TransferJetとは

TransferJetは、2008年にソニーによって提唱され、一般公開された近距離無線転送技術です。その最大の特徴は、機器同士を直接「かざす」という直感的な操作で、データ転送が開始される点にあります。従来の無線通信で必要だった煩雑な設定や、物理的なケーブル接続は一切不要で、非接触型の高速インターフェースとして、幅広い用途での利用が期待されました。

TransferJetの基本コンセプトは、「あえて3センチしか飛ばない無線」というもので、近接通信に特化しています。2008年7月には、国内外の15社が参画する業界団体TransferJetコンソーシアムが発足し、規格の標準化作業が開始されました。2009年3月には、相互接続の基本となるPHY/MAC層を定義した規格が完成し、国際標準ISO/IEC 17568としても登録されています。これにより、誰でもこの仕様を利用できるようになりました。

TransferJetの特徴

TransferJetの主な特徴は以下の通りです。

直感的な操作: 機器同士をかざすだけで自動的に接続が確立し、通信が開始されます。
セキュリティ: 独自のMACアドレスによる機器の事前登録が可能で、不特定多数の機器へのデータ漏洩を防ぐことができます。
柔軟な接続: ホストとターゲットの関係がなく、アクセスポイントも不要なため、モバイル機器と据置機器、あるいはモバイル機器同士のアドホックな直接通信が可能です。
高速データ転送: 物理層では最大560Mbps、実効スループットとして最大375Mbpsの高速データ転送を実現しています。
安定した通信: 周囲の通信状況に応じて最適な転送レートを選択し、状態が悪い時は自動的に転送レートを落とすことで、安定した通信を維持します。
低干渉: 微弱出力の近接専用システムのため、他の無線システムとの干渉がほとんどありません。

技術的詳細

TransferJetは、従来の無線アンテナではなく、誘導電界を用いたカプラを採用しています。このカプラ素子は、結合電極、共振スタブ、グラウンドで構成されており、近距離では高い利得を得られる一方で、距離が離れると急激に減衰する特性を持っています。これにより、他の無線システムとの干渉を抑制しています。また、結合電極は電界の縦波を発生するため、機器同士の角度を気にせずに通信が可能です。

製品と普及

2009年11月にソニーが初のTransferJet対応LSIを出荷し、2010年1月にはTransferJet対応のデジタルカメラやパソコンなどが発表されました。その後、多くのメーカーがTransferJet対応製品を発売し、2013年末にはWindows、Android、iOSなどのプラットフォームに対応したアダプター製品も登場しました。2015年には富士通ARROWSのスマートフォンにTransferJet機能が内蔵され、海外のスマートフォンにも採用されました。さらに、SDカードタイプの製品も発売され、デジカメなどでもTransferJetによるデータ転送が可能になりました。

TransferJetコンソーシアム

TransferJetの相互接続仕様の確立と普及を目指して、2008年7月にTransferJetコンソーシアムが設立されました。2011年9月には一般社団法人化されています。コンソーシアムは、TransferJet搭載機器の相互接続性を確保するための規格策定、規格遵守と相互接続の検証、ロゴマークの運営管理などを行っています。2012年8月時点での会員数は、プロモーターとアドプターを合わせて45社です。

TransferJetとNFC

TransferJetとNFC（FeliCaなど）は、異なる技術を使用しており、相互に干渉することはありません。これにより、同じ位置に両機能を重ねて設置することが可能であり、実際のパソコン製品にも応用されています。

次世代規格「TransferJet X」

2017年6月には、より高速な次世代規格「TransferJet X」が発表されました。これは、IEEE 802.15.3eの仕様に基づいた新たな規格で、60GHz帯を使用し、13.1Gbps以上のデータ転送速度と、2msec以下の接続確立時間を実現します。TransferJet Xは、より幅広いユースケースに対応しており、2020年頃から市場に製品やサービスが登場することが期待されています。