VDIM

VDIM（Vehicle Dynamics Integrated Management）

VDIM（ブイディム）は、トヨタ自動車が開発した先進的な車両安全技術、「統合車両姿勢安定制御システム」の名称です。これは、単に車両の挙動が乱れた際にそれを修正するだけでなく、車両が不安定になる「予兆」を捉え、危険な状況に陥る前に制御を開始する点が最大の特徴です。このシステムは、2004年に登場した4代目クラウンマジェスタ（S180型）で初めて実用化されました。

システムの概要と構成

VDIMは、車両に搭載されている複数の電子制御システムを高度に連携させることで機能します。具体的には、横滑り防止装置（VSC）、アンチロックブレーキシステム（ABS）、電子制御ブレーキシステム（EBD）、トラクションコントロールシステム（TRC）、電動パワーステアリング（EPS）といった個々の制御装置が、電気的に接続され、中央のコンピュータによって統合的に管理されます。この連携には、ブレーキ操作やアクセル操作などを電気信号で行うブレーキ・バイ・ワイヤやドライブ・バイ・ワイヤといった技術が活用されています。

従来のシステムは、車両のタイヤがロックする、スリップする、あるいは車体が実際に横滑りを始めるなど、不安定な挙動が「発生した後」で初めて修正のための制御を開始していました。これに対し、VDIMは車両に搭載されたセンサー（車速、舵角、ヨーレート、Gセンサーなど）からの情報を常に高精度でモニタリングしています。これにより、急な操作や路面状況の変化によって車両の安定性が損なわれそうになる「予兆」をシステムが判断し、不安定な挙動が顕在化するよりも早い段階で、各制御システムに対して最適な介入指示を出します。この「予兆制御」こそがVDIMの根幹をなす技術であり、ドライバーが危険を感じる前に、あるいは危険な状況に陥るリスクそのものを低減することを可能にしています。

予兆制御による効果と安全性

VDIMによる統合制御と予兆制御は、車両の危険回避性能を飛躍的に向上させます。例えば、雨で濡れた路面や凍結した路面での急ブレーキ、あるいは高速走行中の急な車線変更といった、車両が不安定になりやすい状況下において、VDIMはドライバーの意図をより正確に汲み取りながら、車両の安定性を最大限に維持するよう働きます。ブレーキング時のタイヤロックや、コーナリング中のオーバーステア・アンダーステアといった現象を、発生する前に抑制することで、ドライバーは常に安心して車両をコントロールできるようになります。

また、VDIMは単に介入を早めるだけでなく、各システムが互いの挙動を予測し、協調して制御を行うため、制御介入がよりスムーズで自然になるという利点もあります。これにより、ドライバーは唐突な制御介入による違和感を覚えにくく、車両との一体感を感じながら運転することができます。これは、車両の限界性能を引き出しつつも、高い安全性を両立させる上で重要な要素となります。

搭載車種の展開

VDIMは、その高度な制御技術から、登場以降、トヨタおよびレクサスのフラッグシップモデルや上位車種を中心に搭載が進められてきました（情報は2012年時点の日本国内展開車種に基づく）。主な搭載車種は以下の通りです。

トヨタ

クラウンマジェスタ：4代目（S180型）以降
クラウン：13代目（S20#型）以降
マークX：2代目（GRX130型）の3.5Lエンジン搭載グレードに装備
エスティマハイブリッド：2代目（AHR20W型）
アルファードハイブリッド / ヴェルファイアハイブリッド：（ATH20W型）
ハリアーハイブリッド：輸出名レクサスRX400hと同型

レクサス

LS：4代目（F40型）
GS：3代目（S19#型）以降。GS460、GS430、GS450hは全車に装備。GS350、GS250は4代目（L1#型）から装備。
IS：2代目（GSE2#型）以降。IS350は全車に装備。IS250は2009年型以降に装備。
RC：RC Fを含む全シリーズに標準装備
RX：3代目（AGL10W/GGL1#W/GYL1#W型）以降。RX450h、RX350は全車に装備。RX270は後期型（2012年型以降）の“version L”のみ装備。
IS F
* LFA

VDIMは、トヨタグループの車両安全技術を象徴するシステムの一つとして、ドライバーの安心・安全な運転を強力にサポートしています。

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