WAR(闘)

アルバム『WAR（闘）』の紹介

アイルランドのロックバンドU2が1983年に発表したアルバム『WAR』は、彼らのキャリアにおいて重要な転機となる作品です。このアルバムは、全英チャートで初めて1位を獲得し、特にシングル「Sunday Bloody Sunday」や「New Year's Day」は、U2の初期を代表する名曲として知られています。

アルバム制作の背景

このアルバムは、U2が新しいプロデューサーを探していた時期に制作されました。当初のプロデューサー、リリーホワイトは、前作『October』のプロデュースを終えた後、次回のプロデュースを拒否しました。これによりメンバーは、1981年11月にアメリカのプロデューサーサンディ・パールマンとセッションを行い、ロカビリー調の曲を制作しましたが、満足のいく結果とはなりませんでした。その後もジミー・デストリやビル・ウィーランとのセッションを試みるものの、アルバム制作における成果にはつながりませんでした。

最終的に、彼らはリリーホワイトを再び迎え入れ、改めて録音に取り組むことになります。この時、ボノは当時の戦争や平和に関するテーマをアルバムに盛り込み、社会的・政治的なメッセージを込めることを意識していました。

主な曲とテーマ

アルバムには、「Sunday Bloody Sunday」に象徴されるように、北アイルランド紛争を背景に持つ曲が多く収められています。血の日曜日事件をテーマにしたこの曲は、激しいパフォーマンスと共に平和の重要性を訴えかけるものです。また、「New Year's Day」は、ポーランドの「連帯」を表現し、核兵器の危険性を訴えた「Seconds」なども、深いメッセージ性を持っています。

ボノ自身が、「WAR」というタイトルについて、「戦いはさまざまな形を持ち、生き方の戦いも含まれる」と語っているように、アルバム全体を通じて多様な戦いの側面が描かれています。特に、「Sunday Bloody Sunday」をライブで演奏する際には、ボノが「これは抵抗の歌ではない」と断言し、白い旗を掲げるパフォーマンスが印象的でした。また、最後のトラック「40」では、旧約聖書を引用しながら穏やかな平和への祈りが表現されており、アルバムの中でのテーマの対比が際立っています。

音楽スタイルと実験

音楽的には、U2は新しい要素を取り入れ、特に「Sunday Bloody Sunday」や「Drowning Man」ではバイオリンをフィーチャーし、楽曲にさらなる深みを加えました。エッジのギターは、控えめなディレイとエコーを用いて多様な実験が行われ、独特なアレンジが施されています。特に「Drowning Man」などは、ライブでほとんど演奏されていないものの、U2の早期作品の重要な要素として評価されています。

アルバムの成果と影響

『WAR』は、リリース後すぐに反響を呼び、UKアルバムチャートで1位を獲得。一方USでは初のゴールドディスクに認定され、アーティストとしての地位を確立しました。また、『ローリング・ストーン』誌が選ぶオールタイム・グレイテストアルバム500にもランクインし、U2が社会問題に積極的に関与するロックバンドとしてのイメージを確立する要因となりました。

このアルバムのジャケットには、ボノの友人の弟が撮影された写真が使用されており、その視線はアルバムのメッセージと強く結びついています。U2はこの作品を通じて、音楽を通じたメッセージの力を再確認し、そのスタンスは今もなお多くのファンに影響を与え続けています。

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