WWJ-TV

WWJ-TV：デトロイトの"チャンネル62"が歩んだ道

WWJ-TVは、アメリカ・ミシガン州デトロイトに拠点を置くテレビ局（チャンネル62）であり、現在はCBSテレビネットワークが所有・運営しています。同じくCBSニュース・アンド・ステーションズグループ傘下のCW系列局WKBD-TVと共同で、サウスフィールドにあるスタジオを共有しています。送信所はオークパークに位置しています。

このチャンネル62の歴史は、1975年にウィリアム・V・バンクス博士とインターナショナル・フリー・アンド・アクセプテッド・モダン・メイソンズによってWGPR-TVとして設立されたことから始まります。既存のラジオ局WGPR（107.5FM）の事業拡大として設立されたWGPR-TVは、アメリカ本土で最初の黒人所有のテレビ局という画期的な存在でした。当初は黒人コミュニティのニーズに応えるための独自の番組制作を目指しましたが、計画通りには進まず、財政的な課題に直面します。しかし、デトロイト地域の複数の注目すべき番組を制作し、完全なスタッフによるニュース部門を擁していました。WGPR-TVは、パット・ハーヴェイ、ショーン・ロビンソン、シャロン・ダロネガ・ブッシュ、エイミーア・マクプソンなど、後に国内外で成功を収める数多くの黒人テレビ関係者のキャリアを後押ししました。初代スタジオは現在、博物館として保存され、国家歴史登録財に登録された文化遺産となっています。

WGPR-TV：黒人所有局の挑戦

WGPR-TVがチャンネル62として開局するまでには、いくつかの経緯がありました。デトロイトのチャンネル62は、1968年から1972年までWXON-TVが使用していましたが、後にチャンネル20に移動しました。この空白の後、WGPRラジオの所有者であるW.G.P.R., Inc.がチャンネル62の建設許可を申請し、1973年に承認されました。この放送局が特筆されるのは、ウィリアム・V・バンクス博士が率いるインターナショナル・フリー・アンド・アクセプテッド・モダン・メイソンズによって所有された点です。メイソンズが所有するWGPR-FMは、既に黒人所有のラジオ局としてコミュニティに深く関わっていました。バンクスのWGPR-TV設立の動機は、黒人コミュニティ向けの番組とニュースを提供することにあり、特に地元制作コンテンツに重点を置くことを公約しました。

しかし、開局までの道のりは困難でした。資金調達の難しさから建設には約2年を要しました。1975年9月29日の開局には、ジェラルド・R・フォード大統領やロバート・P・グリフィン上院議員からの祝辞が寄せられ、その歴史的意義が強調されました。

WGPR-TVは、黒人タレントや番組が不足していた当時のテレビ業界において、独自の道を模索しました。広告収入の確保にも苦労しましたが、大手企業からの契約を獲得するなど一定の成功を収めました。番組編成においては、シンジケート番組が限られていたため、ローカル制作に大きく依存しました。生放送のダンス番組『The Scene』は特に成功し、地域の文化に大きな影響を与えました。また、ジェリー・ブロッカーをデトロイト初の黒人ニュースマンとして迎えるなど、ニュース部門も注目されました。『Big City News』は都市部の黒人視聴者を対象とし、犯罪報道よりもコミュニティの肯定的な側面に焦点を当てました。技術面では、ニュース収集にビデオテープを導入するなど先進的な試みも行われました。

財政難と番組編成の変化

しかし、WGPRは設立当初から財政的・技術的な課題に悩まされました。技術的な不具合が頻繁に発生し、放送時間の短縮を余儀なくされることもありました。広告主の不満や機器の故障も運営を圧迫し、週に多額の損失を計上することもあったようです。当初の野心的なローカル番組計画は縮小され、外部のコンテンツに頼らざるを得なくなりました。特に、放送時間を購入するテレビ伝道師への依存度が高まり、『PTLクラブ』のような番組が重要な収益源となりました。また、アラブ系やその他の民族コミュニティ向けの番組も放送時間を購入し、収益確保に貢献しましたが、これは黒人コミュニティ向けの放送局としての当初の目的から外れているという批判も生みました。

財政的な苦境は続き、ウィリアム・V・バンクスの死去後には、経営権を巡るメイソンズ内部の争いや訴訟も発生しました。放送局の売却話も持ち上がりましたが、実現しませんでした。この間も番組編成は変化を続け、ダンス番組『The Scene』が終了し、後継番組が登場するなどしましたが、技術的な問題や不均一な編成への批判は残りました。1992年には非管理職従業員が組合を結成しようとし、ニュース部門の解体が労働争議ではないかとの疑念を生みました。

CBSによる買収とその余波

1994年、デトロイトのテレビ業界に大きな転換期が訪れます。CBS系列局WJBK-TVがFOX系列に変更することを発表したのです。これによりデトロイト市場で系列局を失ったCBSは、新たなパートナー探しに奔走しましたが難航しました。VHF局、WKBD、WXON、WADLといった選択肢を検討しましたが、いずれも提携や買収に至りませんでした。最終的に、CBSはWGPR-TVを「最後の手段」として買収することに決定しました。1994年9月23日、CBSはWGPR-TVを2,400万ドルで買収すると発表しました。この買収は、過去のローカル番組の終了や、黒人所有局としての歴史が軽視されることへの懸念から、一部で反対の声も上がりました。

1994年12月11日、WGPR-TVはデトロイトの新たなCBS系列局となり、翌年にはコールサインをAMラジオの姉妹局WWJに合わせてWWJ-TVに変更しました。CBSは当初、WWJ-TVを刷新し、ローカルニュースを立ち上げる意欲を示しましたが、財政的な負担や競争局の存在から計画は頓挫しました。1990年代後半から2000年代にかけて、WWJ-TVはニュース事業の立ち上げに何度か失敗します。一時的にWKBD-TVがWWJ-TVのニュース番組を制作しましたが、視聴率の低迷から短期間で終了しました。その後はローカル天気予報番組「First Forecast」などが放送されましたが、本格的なニュース部門は長らく存在しませんでした。

"CBS News Detroit"として再出発

2021年、WWJ-TV/WKBDの親会社であるバイアコムCBS（現パラマウント・グローバル）は、デトロイトでの本格的なニュースサービス「CBS News Detroit」を開始することを発表しました。これは、CBSニュースが全国的に展開するストリーミングサービスとの連携を強化する一環として位置づけられました。2023年1月23日に平日のニュース放送が開始され、その後、朝や昼の時間帯にも拡大されました。

「CBS News Detroit」は、週に137時間ものオンラインストリーミングニュースを制作するという、アメリカの放送局としてはユニークなモデルを採用しています。そのうち40時間がWWJ-TVの主要な時間帯にサイマル放送されます。機動性を重視し、特派員はモバイル編集システムを備えた車両で現場からリポートを作成します。工業デザインのニュースルームはニュースセットとしても機能します。

WGPR-TVの遺産と歴史保存

WGPR-TVはその短い歴史の中で多くの課題に直面しましたが、後に成功するメディア関係者を数多く輩出した功績は大きく評価されています。WGPRでキャリアをスタートさせた人々は、デトロイトのメディア史において重要な役割を果たしました。また、WGPR-TVの買収は、連邦通信委員会（FCC）の政策変更、特に少数派所有を奨励するプログラムの廃止や所有権規制の緩和と同時期に起こり、放送業界における少数派所有の減少という広範な傾向を反映する出来事でもありました。

WGPR-TVの歴史を保存する取り組みも進められています。元従業員らが中心となりWGPR-TV歴史協会が設立され、旧スタジオを博物館とする計画が進められました。2017年にはウィリアム・V・バンクス放送博物館が開館し、2021年には旧スタジオの建物自体が国家歴史登録財に登録されました。これらの活動は、デトロイトの黒人コミュニティの歴史とメディアにおける彼らの貢献を後世に伝える上で重要な役割を果たしています。

WWJ-TV（チャンネル62）は、かつてのパイオニア的なWGPR-TVの挑戦と、その後のCBS傘下での苦難を経て、現在「CBS News Detroit」として新たなニュース提供のモデルを模索しています。その歴史は、デトロイトの多様なメディア景観と、そこで奮闘した人々の物語を映し出しています。

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