Whataboutism

Whataboutism：概念の解説

Whataboutism（ホワットアバウティズム）とは、批判を受けた際にその批判から目を逸らすために用いられる論法の一種です。この言葉は、「What about ...?」（じゃあ〇〇はどうなんだ？）という表現に由来し、相手や第三者の別の言動を持ち出すことで、問題の核心に対する議論を回避する行為を指します。具体的には、自らの行動を批判された時に、それに対する反論として別の事例を引き合いに出して、議論の焦点をずらすことが一般的な特徴です。

概要と背景

Whataboutismは、冷戦時代にソビエト連邦がしばしば使っていたプロパガンダ手法であり、西側諸国の批判に対して、必ずと言っていいほど「じゃあ、西側諸国はどうなの？」と返して話題を逸らしていました。この戦略は、相手の批判の正当性を弱めるために、別の問題を持ち出して反応するものです。さらに、近年ではアメリカ合衆国のドナルド・トランプ元大統領もこの手法を利用しており、SNSでの議論においても頻繁に見られるようになりました。

日本語では「そっちこそどうなんだ主義」として知られていますが、この訳はWhataboutismの本質を必ずしも正確には表していないとする意見もあります。定義としては、相手の行動を指摘する一方で、自身の行動も同様であるかのように示すことで、批判を正当化しようとする動きです。

具体例と議論への影響

Whataboutismの使用例として、批判された側が「批判するなら代案を出せ」と反論して、議論を成立させないような場合があります。この場合、批判を受けての具体的な議論が進まなくなるため、建設的な議論が阻害される可能性があります。

また、Whataboutismは必ずしも詭弁とは言い切れません。ある主張が正しい場合には、他者の類似の問題を持ち出すことによって意味がある議論が展開される場合もあります。したがって、Whataboutismが使用される場面で、その言動が詭弁であるかどうかを見極めることが重要となります。日本語辞典編纂者の飯間浩明氏によれば、Whataboutismは議論の上で知識として持っておくべき概念の一つとされています。

歴史的背景

Whataboutismの概念に似た論法は、歴史的にも古くから存在していました。たとえば新約聖書におけるイエスの言葉、「あなたがたの中で罪のない者が最初に彼女に石を投げなさい」というものは、相手を責める際の道徳的な立場に関する議論を示しています。このような背後の考えが、現代のWhataboutismに繋がるものと考えられます。

冷戦時代においては、ソ連が利用していたこの論法の影響力は大きく、国際的な枠組みの中でも議論の焦点を損なう一因となりました。冷戦終了後にはその影響が薄れていましたが、近年では再び注目が集まっているのです。

現代における問題

現在のWhataboutismは、個人の意見や行動に対する批判の応答だけではなく、国際政治の面でも見られるようになりました。例えば、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の報道官は、ロシアの人権問題に対する批判に対して西側諸国の問題を持ち出して反論することが多く、これがひとつの前例となりました。このような形でWhataboutismは、地域や国を問わず今なお用いられているのです。

結論

Whataboutismは、一見して単なる論点ずらしのように思えますが、特定の文脈や状況においては有効な議論の手段ともなり得るため、その扱いには慎重さが求められます。日常の議論から政治的な場面に至るまで、Whataboutismの理解と適切な使用が必要とされる時代に私たちは生きているのです。

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