Wnn

Wnn：日本語入力システムの歴史と進化

Wnn（うんぬ）は、日本語のテキスト入力をかな漢字変換で行うシステムです。当初はワークステーション向けに開発されましたが、その後は組込み機器への搭載が主流となりました。本稿では、Wnnの歴史、特徴、バージョン、そして搭載機器について詳細に解説します。

開発と初期のWnn

Wnnは、1985年から京都大学、慶應義塾大学、立石電機（現オムロン）、アステック（現アールワークス）の共同開発によって生まれ、1987年に完成しました。当時、PCでは連文節変換が一般的でしたが、ワークステーションでは単語ごと、もしくは文節ごとの変換が主流でした。Wnnは、ワークステーションにおいても「Watashino Namaeha Nakanodesu」といった入力から「私の名前は中野です」といった自然な日本語への変換を実現することを目指し開発されました。その頭文字からWnnと名付けられ、「中野」は開発チームの窓口担当者の氏名に由来します。

Wnnバージョン4（Wnn4.x）は、1990年代のUNIXワークステーションで広く利用され、X Window Systemにも同梱されるようになりました。しかし、辞書の語彙数や変換精度は必ずしも十分ではありませんでした。Wnn4.2がベースとなり、ワークステーションや組込機器向けに様々なバージョンが派生しました。Wnnはバージョン4.2まではフリーソフトウェアとして公開されていました。

Wnnの特徴：ネットワーク透過型システム

Wnnの大きな特徴は、ネットワーク透過なクライアント・サーバー型システムを採用している点です。一般的な日本語入力システムは、すべての処理をローカルで行いますが、Wnnではユーザーインターフェースを担当するクライアントと、かな漢字変換エンジンであるサーバーが分離されています。両者はネットワークを介して通信することで動作します。サーバーはLAN上のいずれかのコンピュータで稼働すればよく、ローカルのCPU負荷を軽減できる他、単語登録や辞書学習の成果を一元的に管理できるというメリットがあります。一方で、ネットワーク遅延によるレスポンス低下や、サーバー・ネットワーク障害時の入力不可といったデメリットも存在しますが、必要に応じてローカルでサーバーを動作させることも可能です。

この柔軟なアーキテクチャは、当時ネットワーク利用が盛んだったUNIXワークステーション環境ならではのものであり、後のCannaやSj3といった入力システムにも影響を与えています。Wnnのサーバープログラムは`jserver`と呼ばれ、クライアントには`uum`（キャラクタ端末用）、`kinput2`、`xwnmo`（X Window System用）、`egg`（Emacs/Mule用）などがありました。また、中国語・朝鮮語版も存在しました。

Wnnのバージョンの多様性：ワークステーションから組込機器へ

Wnnは、ワークステーション向けと組込機器向けで様々なバージョンが開発されました。

ワークステーション向け:

Wnn6 (1998年)：辞書の拡充と「FI(Flexible Intelligence)変換」技術による変換精度の向上。UNIXとWindowsに対応。
Wnn7 (2001年)：入力予測、連想変換、逆引き変換、入力補正などの新機能追加。
Wnn8 (2005年)：入力予測機能強化、IIIMF対応、Unicode/JIS X 0213対応。Ubuntu向けのカスタマイズ版もリリース。
FreeWnn：Wnn4.2をベースとしたフリーライセンス版。
OpenWnn：その他、様々な派生版が存在。

組込機器向け:

メモリ容量の制約に対応するため、機能を絞り込んだミニWnnから、高度な機能を備えたiWnnまで、様々なバージョンが存在します。主な違いは変換エンジンのサイズ、辞書サイズ、機能（入力予測、文脈変換、学習機能など）です。iWnnは、文脈・時刻からの時制・季節判断、ワイルドカードによる予測絞り込み、多言語対応など高度な機能を備えていました。OpenWnnは、iWnnをApache v2ライセンスでオープンソース化したものです。

Androidスマートフォン向け:

iWnn IME：iWnnをベースにしたIME形式の多言語入力システム。
* Wnn Keyboard Lab：Google Playストアで提供される無料版。

Wnn搭載機器：フィーチャーフォンからゲーム機まで

Wnnは、携帯電話、PHS、スマートフォン、タブレット、ゲーム機など、多様な機器に搭載されました。特にフィーチャーフォンやPHSでは、多くの機種にiWnnやその派生バージョンが採用されました。詳細な機種一覧はオムロンソフトウェアの公式ウェブサイトを参照ください。

まとめ

Wnnは、長年に渡り進化を続け、様々な機器で利用されてきた日本語入力システムです。その柔軟なアーキテクチャと多様なバージョンは、時代に合わせて進化し続ける技術の証と言えるでしょう。

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