YH-32 (航空機)

ヒラーYH-32 ホーネットについて

ヒラーYH-32 ホーネット（Hiller YH-32 Hornet）は、1950年代初頭に登場したユニークなヘリコプターで、主回転翼の先端にラムジェットエンジンを装備したチップジェット方式が特徴です。この機体は、1950年にヒラーHJ-1として開発され、翌年にはアメリカ陸軍によって12機が評価用に発注され、YH-32という制式記号を持つに至りました。

構造と機能

YH-32は、軽量の自重約250kgの機体に、ヒラーの8RJ2Bラムジェットエンジンを取り付け、その推力で回転翼を回し、離陸する設計がなされています。このラムジェットによる推力は、従来の回転翼機と異なり、特異な性能を発揮しました。テストではロケット弾などを搭載し、様々な実験が行われましたが、航続距離が約50kmという距離は、実用性に乏しく、限界があることが明らかになりました。

明らかになった問題点

YH-32の主な欠点は、燃料消費が非常に激しく（いわゆる燃費が悪い）、飛行可能時間が短いことでした。さらに航続距離の不足も指摘され、航空機としての実用的な評価には耐えられませんでした。加えて、周辺の運用機体も共通して抱えていた問題がありました。それは、回転翼からの高圧・高温ガスの排出音が非常に騒がしいことです。1954年春にはこの騒音を軽減するための高さ5.5m、直径12mの円筒状防音障壁が建設されることになり、チップジェットの問題の深刻さを物語っています。

オートローテーションの特性

外付けのラムジェット方式では一般的にオートローテーション（自動回転）が難しいとされています。しかしYH-32は、ラムジェットが停止した際に空気の流れを遮断し、抵抗を減少させることである程度のオートローテーションが可能でした。ただし、翼端ラムジェットの高い抗力により、動力が切れた際には羽根を極端な負の角度に設定する必要がありました。これにより、毎秒15mもの降下率で急降下する結果となり、安全に着陸を行うには非常に高い操縦技術が求められました。

機体性能と仕様

概要

• - 乗員：2名
• - 主回転翼直径：23フィート0インチ（約6.9m）
• - 全高：7フィート10インチ（約2.4m）
• - 円板面積：402平方フィート（約37.4平方メートル）
• - 自重：544ポンド（約244.8kg）
• - 全備重量：1,080ポンド（約486kg）
• - 発動機：ヒラー8RJ2Bラムジェット2基（推力：40ポンド / 178N）

性能

• - 最大速度：80mph（約129km/h）
• - 巡航速度：69mph（約111km/h）
• - 航続距離：28マイル（約45km）
• - 上昇限度：6,900フィート（約2,100m）
• - 初期上昇率：700フィート/分（約213m/分）

ヒラーYH-32ホーネットはその独特な設計と性能特性を持つものの、数多くの技術的な課題を抱えていたため、実用化には至りませんでした。その評価は当時の技術の限界を示すものであり、新しい技術への挑戦が試みられる中での貴重な試験機としての役割を果たしました。

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