FEED

少女たちの逃避行と、それぞれの運命

櫛木理宇氏による小説『FEED』は、2016年に新潮社より刊行され、後に『少女葬』と改題の上、新潮文庫より発売されました。モラルハラスメントの家庭から逃れ、シェアハウス「グリーンヴィラ」に身を寄せた伊沢綾希と関井眞実。一見、安住の地のように見えるその場所は、嘘と盗みが横行する、劣悪な環境でした。

偽りの楽園と複雑な人間関係

綾希は成績優秀で芯の強い少女でしたが、父親からのモラルハラスメントに耐えかねて家出を決意。県境を幾つも越え、辿り着いた先は、思っていた以上に過酷な現実でした。一方、眞実は恋愛依存体質の母親と、その恋人に翻弄され、グリーンヴィラに逃げ込んできます。一見対照的な二人の少女は、奇妙な友情を育んでいきますが、その運命は、やがて大きく異なる方向へと進んでいきます。

グリーンヴィラには、個性豊かな住人たちがあふれています。住人のまとめ役を担う三津子や峰岸は、セクハラまがいの行為を繰り返すなど、住人たちを支配下に置こうとしています。また、非合法な仕事に手を染めるリカや、アルコール依存症の父親から逃れてきた淳平、引きこもり経験を持つ若月など、それぞれが複雑な過去を抱えています。

出会い、そして別れ

綾希は、警官に追われた際に逃げ込んだ喫茶店「LA STRADA」で、店長の長谷川季枝と出会います。季枝は、綾希の自立を支え、温かく見守る存在となります。やがて、季枝の息子である陸と恋に落ちる綾希は、少しずつ自分自身を取り戻していきます。一方、眞実は、宇田川海里という謎めいた人物に心酔し、彼女の周りにいる少年少女たちと関わっていく中で、自分を見失っていきます。

海里は、グリーンヴィラのオーナーである細貝の意向を受け、家出した少年少女たちを自分のグループに取り込んでいます。きらびやかな生活を提示することで、眞実は海里に依存し、次第に危険な関係へと足を踏み入れていきます。海里のグループには、美青年の亮や、サディスティックなヒロキ、そしてナナなど、個性的なメンバーが揃っており、彼らの関係性は複雑に絡み合っています。

母との再会と決別

ある日、綾希は母親である伊沢ふみ子と「LA STRADA」で再会します。しかし、ふみ子は綾希の現状を理解することなく、自己中心的な行動を繰り返します。それによって、綾希は母親との決別を決意することになります。

それぞれの選択

物語は、綾希と眞実、そしてグリーンヴィラに住む人々のそれぞれの選択と、その結果を描いていきます。嘘と裏切り、友情と愛情、そして自立と依存。様々な要素が複雑に絡み合い、読者の心に深く突き刺さる物語となっています。

『FEED』から『少女葬』へ

文庫版『少女葬』では、一部文章の改訂が加えられています。より洗練された表現と、登場人物たちの心情描写が深まりました。原題の『FEED』が持つ意味深長さも含め、文庫版を読むことで、より深く物語の世界観を理解できるでしょう。

この小説は、現代社会における若者たちの苦悩や葛藤、そして生き抜くための強さを描いた作品です。様々な問題を抱えながらも、自分自身の道を切り開こうとする少女たちの姿は、多くの読者に共感と感動を与えることでしょう。それぞれの登場人物の背景や、彼らの選択がもたらす結末は、読後も長く心に残る、忘れがたい物語です。

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