OVH

OVH Holdings（オヴエイチ ホールディングス）は、フランス北部ルーベに本社を構える、欧州を代表するクラウドコンピューティングおよびウェブホスティング企業です。1999年に実業家オクテフ・クラバ氏によって設立された同社は、設立当初から独自のデータセンターネットワークとグローバルなインフラストラクチャ構築に注力してきました。この取り組みにより、2016年時点では世界最大級のデータセンター保有企業の一つとして数えられるほどの規模に成長しました。多様な顧客ニーズに応えるため、専用サーバー、仮想プライベートサーバー（VPS）、パブリッククラウド、プライベートクラウドなど、幅広いクラウドサービスを提供しています。2019年には、企業向けクラウドサービスを強化する主要ブランドとして「OVHcloud」を立ち上げ、グローバル市場での競争力を高めています。

しかし、同社の歴史において、2021年3月10日（中央ヨーロッパ時間、UTC+1）に発生したフランス東部ストラスブールのデータセンター火災は、避けて通れない大きな出来事となりました。この火災は、同社の主要な施設のひとつであるストラスブールのデータセンター団地内で発生しました。この施設は複数の棟で構成されており、火災発生当時、4棟のデータセンター棟が稼働していました。火災はこれらの棟のうち、「SBG2」と呼ばれる棟を直撃し、火の勢いはすさまじく、同棟は完全に焼失しました。隣接する「SBG1」棟にも延焼し、この棟に備え付けられていた12室のサーバー室のうち4室が損害を受けました。火災発生後、迅速な消火活動が行われ、同日午前5時頃には鎮火しましたが、施設の物理的な被害は壊滅的でした。幸いにも、この火災による従業員を含む関係者への人的な被害は報告されていません。

このデータセンター火災がもたらした影響は甚大であり、広範なデジタルサービスに及びました。最も直接的な影響は、被災した棟に収容されていたサーバーとその上のデータの消失です。オンラインマルチプレイヤーゲームとして知られる「Rust」においては、サーバー上に保存されていたプレイヤーのセーブデータの一部が失われる事態が発生しました。さらに、フランス国内のウェブサイトを示す国別ドメイン「.fr」を持つウェブサイトの約2%が、この火災による影響を受け、一時的にアクセス不能になったり、重要なデータが消失したりしました。影響を受けた具体的な事例としては、パリにある世界的に有名な文化施設、ポンピドゥー・センターの公式サイトや、フランス北西部ノルマンディー地方の主要都市であるシェルブール＝アン＝コタンタン市の公式サイトなどが挙げられます。これらのサイトの停止やデータ消失は、ユーザーや関係者に少なからぬ影響を与えました。

OVHはこの火災を受けて、被害を受けた施設の復旧と、顧客データのサルベージ、代替インフラへの移行などに追われました。この出来事は、クラウドサービスを利用する企業や個人に対して、データのバックアップ戦略や、複数の地理的に離れた場所にデータを分散させるディザスターリカバリー（災害対策）計画の重要性を強く認識させるものとなりました。また、クラウドプロバイダー側のインフラの強靭さや透明性についても、改めて議論を巻き起こすきっかけとなりました。ストラスブールでの火災は、デジタルインフラが現代社会にとって不可欠であると同時に、自然災害や事故に対して依然として脆弱であることを浮き彫りにした事例と言えます。OVHはその後、施設の再建やセキュリティ対策の強化を進めていますが、この火災は同社だけでなく、クラウドコンピューティング業界全体にとっても大きな教訓となりました。

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