アケボノ

イネ品種「アケボノ」

イネ品種「アケボノ」は、1953年（昭和28年）に東海近畿農業試験場にて誕生した水稲品種です。これは、「農林12号」という品種を母親に、「朝日」を父親とする人工交配によって生み出されました。当時、主要品種の一つであった「朝日」に匹敵、あるいはそれにとって代わる存在となることを期待し、「朝日」の類義語である「曙」から命名されました。育成中の系統名は「東山62号」として知られていました。

特徴と用途

アケボノの主な栽培地は、岡山県の南部地域が中心です。この品種は晩生に分類され、一般的には10月下旬から11月上旬にかけて収穫期を迎えます。粒の大きさが特徴で、千粒重は約23.8グラムと比較的大粒です。また、収量性も高く、多収品種として評価されています。

栽培面では、病気に対しては中程度の抵抗力を持っていますが、稈（茎）が倒れやすいというやや弱い性質があります。

食味に関しては、味は良いものの、粘り気が控えめという特性があります。このため、炊飯米としてだけでなく、その粘りの少なさを活かして寿司飯用として重宝されています。さらに、業務用としてピラフやカレーなどの加工米飯の材料としても広く利用されています。一般的なうるち米としては粒が大きいため、酒造りにおいて麹米や蒸米として使われる「掛米」としても適性があります。

育成の経緯

アケボノの育種研究は、1939年（昭和14年）に兵庫県立農事試験場で開始されました。ここで、「水稲農林12号」を種子親、「朝日」を花粉親とした人工交配が実施され、原品種が誕生しました。

交配後、得られた雑種第3世代（F3）の種子は、1942年（昭和17年）に岐阜県にある農林省指定水稲新品種育成試験地（現在の岐阜県農業技術研究センター）へ送られ、その後の系統選抜および固定作業が進められました。岐阜県での選抜は1946年（昭和21年）まで続けられました。

翌1947年（昭和22年）には、育成事業が農林省安城農事改良実験所（愛知県安城市）へと引き継がれ、さらなる改良と評価が行われました。

1949年（昭和24年）2月には、この有望な系統に「東山62号」という地方系統名が与えられ、全国の関係府県に配布されました。これにより、各地域での栽培適性や特性が詳細に調査され、その実用性が確認されていきました。

そして、1951年（昭和26年）4月からは、試験研究が東海近畿農事試験場（現在の国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構の一部）に移管されました。同場での綿密な検討の結果、この品種が三重県と奈良県において優良品種として奨励品種に採用されることが決定しました。この採用と同時に、1953年（昭和28年）に「アケボノ」という名称が正式に付与され、日本の主要なイネ品種の一つとしての歩みを始めたのです。

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