しょうけら

しょうけら：庚申待に潜む監視者

江戸時代の妖怪絵巻『百怪図巻』や『画図百鬼夜行』などに姿を見せる妖怪、しょうけら。その正体は謎に包まれています。これらの絵巻には解説がなく、しょうけらの姿形や能力は、後世の解釈に委ねられています。しかし、民俗信仰における庚申待との関連から、その存在の輪郭を捉えることができます。

庚申待とは、古くから伝わる民間信仰の行事です。人間の体内には三尸という虫がいて、庚申の夜に天に昇り、その人の罪を天帝に報告すると信じられていました。天帝は報告を元に人の寿命を決めるとされ、庚申の夜は眠らずに過ごし、三尸の報告を阻止しようとするものです。

しょうけらは、この庚申待において重要な役割を果たしていると考えられています。ある呪文に「しょうけらはわたとてまたか我宿へねぬぞたかぞねたかぞねぬば」という記述があり、これはしょうけらによる害を避けるための呪文だと解釈されています。このことから、しょうけらは庚申の夜に人間に害をもたらす存在として認識されていたことがわかります。

さらに、『庚申伝』という元禄時代の書物には「ショウキラハ虫ノコト也、一説三尸ノコトト云」という記述があり、しょうけらと三尸を同一視する解釈も存在します。三尸は通常、虫の姿で描かれますが、しょうけらを描いた絵には、獣のような姿をした三尸「中尸」をモデルに描かれた可能性も示唆されています。

鳥山石燕が描いた『画図百鬼夜行』のしょうけらは、家屋の屋根にある天窓から家の中を覗き込んでいる姿で描かれています。昭和、平成以降の研究では、これは庚申待の夜に人々が規則を守っているか監視している姿だと解釈されています。規則を破った者には、鋭い三本の爪で罰を与えるとされています。

このように、しょうけらは、絵巻物における描写、民俗信仰における呪文、そして文献上の記述など、複数の情報源からその存在が確認できます。しかし、その正体は未だ謎に包まれており、様々な解釈がなされています。三尸そのもの、あるいは三尸を擬人化した姿、もしくは庚申待の夜に人々を監視する存在など、様々な説が提示されていますが、いずれも確固たる証拠に基づいているわけではありません。

しょうけらの謎は、現代においても研究者や妖怪ファンを魅了し続けています。今後の研究によって、より詳細な姿や能力、そしてその起源が明らかになることを期待したいところです。絵巻物や文献を紐解き、民俗学的な考察を加えることで、この不思議な妖怪の全貌解明に一歩近づけるかもしれません。その謎めいた存在こそが、しょうけらを魅力的な妖怪として私たちの前に提示していると言えるでしょう。

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