ともしび

ロシアの心を映す歌「ともしび」

「ともしび」（ロシア語: Огонёк、アガニョーク）は、ソビエト連邦時代に広く愛されたロシアの歌曲です。作詞はミハイル・イサコフスキー、作曲者は不明とされています。この歌は、日本でもロシア民謡を代表する一曲として、多くの人々に親しまれてきました。

歌の背景

「ともしび」は、戦地に赴く若者と、故郷に残る恋人との別れ、そして遠く離れた場所での心のつながりを歌ったものです。1942年、第二次世界大戦（ロシアでは大祖国戦争）の最中に、ミハイル・イサコフスキーによって詩が発表されました。原題「Огонёк」は、ロシア語で「火」を意味する名詞「огонь」の指小形で、「小さな火」や「灯火」といった意味を持ちます。

この詩は、当時のロシアの人々の心を捉え、広く歌い継がれるうちに、自然とメロディーがつけられるようになりました。現在知られている「ともしび」のメロディーは、数あるメロディーの中で淘汰されて残ったものですが、その起源は明確にはわかっていません。古い民謡のメロディーが使われたという説もありますが、詳細は不明です。イサコフスキーの別の詩「カチューシャ」を作曲したマトヴェイ・ブランテルをはじめ、多くの作曲家がこの詩に曲をつけましたが、広く知られることはありませんでした。

日本での広がり

日本では、「ともしび」は「カチューシャ」などとともに、ロシア民謡を代表する曲として、歌声運動の中で広まりました。1955年には、新宿に歌声喫茶『ともしび』が開店し、歌声運動のシンボル的な存在として親しまれました。1956年にはダークダックスがシングルとして発売し、1958年のNHK紅白歌合戦でも歌われました。また、1963年には千葉真一もこの歌を歌っています。

日本で一般的に知られている日本語詞は、楽団カチューシャによる訳詞です。NHKの『みんなのうた』では、1966年に峯陽が訳詞したバージョンが放送されましたが、このバージョンでは作詞・作曲が「ロシア民謡」名義とされ、イサコフスキーの名前はクレジットされていません。

歌い方の違い

日本では、「ともしび」はゆっくりとしたテンポで、叙情的に歌われるのが一般的です。しかし、ロシアでは、早めのテンポで、行進曲のように歌われることが多いです。ロシアの歌が日本に伝わると、テンポが遅くなる傾向があるのですが、「ともしび」では特にその傾向が顕著です。音楽家の山之内重美は、ロシア人の伴奏者と共演する際、この歌のテンポの違いが最も問題になると述べています。

「ともしび」は、その美しい旋律と、故郷を想う心、愛する人への想いが込められた歌詞で、時代を超えて多くの人々の心に響き続けています。

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