どうもこうも

どうもこうも：二つの頭を持つ謎めいた妖怪

日本の妖怪絵巻にしばしば登場する「どうもこうも」は、その姿形や生態、由来など、多くの謎に包まれた存在です。古文書や絵巻物からは、様々な表記ゆれが見られ、「どふもこふも」「とうもかうも」「とうもこうも」といった旧仮名遣いの表記や、「右も左も」という漢字表記も確認できます。これらの表記ゆれは、妖怪の呼び名における揺らぎや、時代による変化を反映しているのかもしれません。

妖怪の姿と描かれた絵巻物

「どうもこうも」は、一つの体に二つの頭を持つという特徴的な姿で描かれています。その奇怪な姿は、多くの絵巻物に記録されており、『百鬼夜行絵巻』をはじめ、『百物語化絵絵巻』（1780年）、『ばけ物つくし帖』、国際日本文化研究センター所蔵の『化物尽絵巻』、国立歴史民俗博物館所蔵の『化物絵巻』など、江戸時代の様々な作品にその姿を確認することができます。特に国立歴史民俗博物館所蔵の『化物絵巻』では、「右も左も」という漢字表記が用いられている点が注目されます。これらの絵巻物は、当時の妖怪に対する認識や想像力を垣間見せる貴重な資料と言えるでしょう。また、江戸時代の随筆『嬉遊笑覧』には、古法眼元信による「化物絵」に「とうもかうも」という名称の妖怪が描かれていたという記述があり、文献による裏付けも存在します。

しかしながら、これらの絵巻物や文献からは、「どうもこうも」がどのような能力を持ち、どのような行動をとる妖怪なのかといった具体的な情報はほとんど得られません。そのため、その生態や習性については、依然として謎に包まれたままです。

「どうもこうも」と「どうもこうもならない」：昔話の民間語源説

妖怪「どうもこうも」の名称は、ことわざ「どうもこうもならない」の由来に関連しているという民間語源説があります。この説の根拠となるのは、医者同士が腕比べをする昔話です。昔、「どうも」と「こうも」という名の二人の名医がおり、互いに日本一の腕を持つと豪語していました。その実力を競うため、二人はまず互いの腕を切り落とし、見事に繋ぎ合わせます。しかし、切り口は完璧で、勝負はつかず。次に互いの首を切るという危険な試みに挑みます。多くの人々が集まる中、二人は代わりばんこに首を切り落とし、見事に繋ぎ合わせます。それでも勝負はつかず、ついに二人は同時に首を切り落とすという決死の勝負に出ます。しかし、二人とも首を失ったため、繋ぐ者がおらず、二人とも死亡してしまいました。この話から、どんなに頑張ってもどうにもならない状況を「どうもこうもならない」と言うようになったというのです。

この昔話と妖怪「どうもこうも」との直接的な関係は不明ですが、二つの頭を持つ妖怪の姿と、「どうも」と「こうも」という二人の医者の存在が、名称の由来となった可能性は考えられます。平成以降の妖怪に関する書籍では、この民間語源説が関連情報としてしばしば引用されており、妖怪研究においても興味深い論点となっています。

まとめ

「どうもこうも」は、その姿形から想像力を掻き立てる妖怪ですが、その生態や能力については不明な点が多く残されています。複数の絵巻物に登場する一方で、具体的な記述が乏しいことから、その存在は謎に包まれたままです。「どうもこうもならない」ということわざとの関連性も示唆されており、民俗学的な観点からも興味深い存在と言えるでしょう。今後の研究により、この不思議な妖怪の姿がより鮮明に浮かび上がることが期待されます。

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