わたくしどもは。

映画『わたくしどもは。』：記憶喪失と歴史の影が交錯する物語

2024年5月31日に公開された日本映画『わたくしどもは。』は、監督・脚本・編集を富名哲也が務め、小松菜奈と松田龍平が主演を務める作品です。この映画は、ヴェネチア国際映画祭の支援プロジェクト「Biennale College Cinema 2018-2019」インターナショナル部門で選出された9作品の中の1つとして、日本からは唯一選ばれた企画を映画化しました。

富名監督は、江戸時代に佐渡金山で過酷な労働を強いられ命を落とした「無宿人」と呼ばれる戸籍を剥奪された人々、つまり無国籍者の存在に着想を得て本作を制作しました。金山跡地には「無宿人の墓」と呼ばれる墓地があり、現在もなお問題視されている無宿人と無国籍者の問題を背景に、監督は「この社会に無宿人と無国籍者は記録上存在していない。だからこの世を去っても認められないままに、彼らの魂は報われることのないまま彷徨い続けている。彼らの存在を蔑ろにしないためにも、このことをテーマにした映画を作りたかった」と語っています。

物語は、佐渡島の金山跡地で倒れていた若い女性が、記憶を失った状態から始まる。清掃員をしている女性に助けられ、彼女の自宅で暮らすことになる。そこには既に「アカ」と「クロ」と名乗る2人の少女が住んでいました。名前すら思い出せない女性は、「ミドリ」と名付けられ、館長の許可を得て、清掃員として働くようになります。

清掃員として働く中で、ミドリは自分と同じように記憶を失くした警備員の男性、「アオ」と出会います。アオもまた、過去の記憶と名前を思い出せないでいます。同じ境遇の2人は、やがて互いに惹かれ合うようになっていきます。

映画は、ミドリとアオの記憶を取り戻そうとする葛藤、そして彼らが辿る、過去と現在の複雑に絡み合った物語を描いています。佐渡金山という歴史的背景と、現代社会における無国籍者問題という重いテーマを、繊細な人間ドラマを通して提示することで、観る者に深い考えを促す作品となっています。

キャストには、ミドリ役の小松菜奈、アオ役の松田龍平をはじめ、個性豊かな俳優陣が名を連ねています。向田透役の片岡千之助、ムラサキ役の石橋静河、向田透の母役の内田也哉子、爛れた男役の森山開次、能楽師役の辰巳満次郎、館長役の田中泯、そしてキイ役の大竹しのぶなど、実力派俳優たちがそれぞれの役を熱演しています。

スタッフ陣も、監督・脚本・編集の富名哲也をはじめ、音楽に野田洋次郎、企画・プロデュース・キャスティングに畠中美奈など、映画制作のプロフェッショナルたちが集結。それぞれの技術と才能を結集し、この深く心に響く物語を完成させました。

『わたくしどもは。』は、記憶喪失というミステリアスな要素と、歴史的背景、そして現代社会の問題意識が複雑に絡み合い、観る者に様々な感情と深い思考を呼び起こす、忘れがたい作品です。忘れ去られた魂たちの物語が、静かに、しかし力強く、私たちの心に訴えかけてきます。

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