アトムキャット

猫型サイボーグヒーローの活躍を描いた、手塚治虫のギャグ漫画『アトムキャット』

手塚治虫の代表作といえば『鉄腕アトム』ですが、晩年の手塚治虫は、そのアトムをモチーフにしたユニークな作品を世に送り出しました。それが、1986年7月から1987年2月にかけて「ニコニココミック」（世界文化社）で連載された『アトムキャット』です。正確なタイトルは『ア・トムキャット』で、アとトの間に中黒が入ります。

本作は、児童向けギャグ漫画として描かれており、『鉄腕アトム』のリメイクを意識した作品といえるでしょう。しかし、その連載期間はわずか半年足らず。これは、作者の健康状態の問題ではなく、掲載誌が休刊に追い込まれたことが原因でした。

奇妙な運命を辿る子猫アトム

物語は、いじめられっ子のつぎお君が拾った子猫のアトムから始まります。アトムはいたずら好きで、つぎお君に何度も捨てられそうになります。そんなある日、2人は交通事故に巻き込まれ、危機一髪で助かります。事故を起こしたのは、宇宙人の夫婦、チャールズとダイアナでした。

宇宙人夫婦は、事故への贖罪と、つぎお君の記憶していた漫画との混同から、アトムを『鉄腕アトム』の主人公アトムとしてサイボーグ手術をするという、とんでもない行動に出ます。こうして、光子力がエネルギー源のスーパーキャットとして、アトムは新たな人生を歩み始めるのです。

短いながらも魅力的なエピソードの数々

連載はわずか8話で終了してしまいましたが、その内容は決して少なくありません。主なエピソードとしては、アトムの誕生秘話や初恋、悪霊ネコ・メフィストとの対決、海賊の宝探し、絵を描くアトムなど、バラエティ豊かなストーリーが展開されています。また、『親のいないアトム』という、アトム自身の生い立ちに焦点を当てたエピソードも印象的です。

雑誌の廃刊により、物語は未完に終わってしまいましたが、それでも多くの読者に愛される作品となりました。その人気は、2012年にデジタルマガジン社が英語版出版のためクラウドファンディングを実施した際にも証明されています。目標額の241%となる49411ドルもの資金調達に成功し、751人のサポーターを獲得しました。

多様な書籍展開

『アトムキャット』は、様々な出版社から単行本として刊行されています。講談社の『手塚治虫漫画全集』、秋田書店の『秋田文庫』『SUNDAY COMICS』、講談社の『手塚治虫文庫全集』など、複数出版社から版を重ねており、現在でも入手可能です。2023年には、読み物絵本としてリメイク版も発売されました。これらの版を通して、多くの人が『アトムキャット』の世界を楽しむことができるのです。

手塚治虫の漫画作品の中でも、独特の雰囲気を持つ『アトムキャット』。短期間の連載ながらも、その魅力は多くの読者を捉え、現在に至るまで愛され続けています。サイボーグ猫アトムの活躍と、ユーモラスなストーリーは、世代を超えて読者に楽しさを提供し続けるでしょう。未読の方は、ぜひ一度手に取ってみてください。

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