アート・ネヴィル

アメリカ音楽界において、特にニューオーリンズ・サウンドを象徴する偉大なキーボーディスト、そしてシンガーとして知られるのが、アート・ネヴィルです。彼は伝説的なバンドであるミーターズや、ファミリーグループのネヴィル・ブラザーズを率い、長年にわたりファンクやR&Bのシーンに貢献。「パパ・ファンク」という愛称で、多くの音楽ファンから敬愛されました。

初期の活動とホウケッツ

1937年12月17日、アートは音楽の豊かな伝統が息づく街、ニューオーリンズに生を受けました。若い頃から音楽の才能を示し、高校時代にはホウケッツというローカルグループに参加。ここで彼は重要な役割を担うようになります。1954年には、ホウケッツがチェス・レコードからリリースしたシングル『Mardi Gras Mambo』でリード・ヴォーカルを務め、この曲は彼らの代表作となりました。

ソロキャリアからミーターズへ

ホウケッツでの活動を経て、アートはソロアーティストとしてもキャリアを積みます。スペシャルティ・レコードから発表された『Cha Dooky-Doo』などの楽曲は、その後の彼の音楽性を予感させるものでした。1960年代半ばになると、彼は自身が率いるバンド、アート・ネヴィル＆ザ・サウンズを結成。このバンドは、メンバーの変遷を重ねながら発展し、1968年には、インストゥルメンタルファンクの金字塔を打ち立てるミーターズとして、音楽界に衝撃的なデビューを果たします。ミーターズは、そのタイトでグルーヴィーなサウンドで、多くのミュージシャンに影響を与えました。

ネヴィル・ブラザーズの結成

ミーターズは1977年に一度活動を休止しますが、アートの音楽探求は続きます。彼は、自身の兄弟であるアーロン、チャールズ、シリルという才能あふれるミュージシャンたちと共に、ネヴィル・ブラザーズを結成。このファミリーバンドは、ニューオーリンズ特有の多様な音楽的要素を取り入れ、R&B、ソウル、ファンク、ゴスペル、レゲエなどを融合させた独自のサウンドで、幅広い層から支持を得ました。

ミーターズの再始動と晩年

一方、ミーターズもアートの活動と並行して、再結成の動きが見られました。1989年には、ドラマーにラッセル・バティスト・ジュニアを迎え、再びミーターズとしてステージに立ちます。その後、一部メンバーが入れ替わり、「ファンキー・ミーターズ」として活動を継続。また、オリジナルメンバーによるミーターズも、散発的に再結成され、「オリジナル・ミーターズ」として特別なライブを行うなど、アートは晩年まで精力的に音楽活動を展開しました。ネヴィル・ブラザーズは2012年に活動を休止しましたが、アートはその後もファンキー・ミーターズで演奏を続けました。

引退、そして逝去

長きにわたる輝かしいキャリアに区切りをつけるため、アート・ネヴィルは2018年12月に音楽活動からの引退を正式に発表しました。そして、そのわずか数ヶ月後の2019年7月22日、彼は自身のルーツであるニューオーリンズの自宅にて、安らかに息を引き取りました。享年81歳でした。

アート・ネヴィルが残した功績は計り知れません。ミーターズでの革新的なファンクサウンドや、ネヴィル・ブラザーズでのソウルフルなパフォーマンスは、今なお多くの音楽ファンに愛され、後進のアーティストたちに影響を与え続けています。彼の奏でた音は、「パパ・ファンク」として、ニューオーリンズ音楽史に深く刻まれています。

もう一度検索