キノー

キノー：ソ連ロックの伝説

キノーは、1981年にレニングラード（現サンクトペテルブルク）で結成されたソビエト連邦を代表するロックバンドです。ポストパンク、ニューウェイヴの影響を受けた音楽性と、ボーカルのヴィクトル・ツォイのカリスマ性で、ソ連、そして現代ロシアの音楽シーンに大きな足跡を残しました。バンド名はロシア語で「映画」を意味し、映画館のネオンサインから着想を得たと言われています。

結成と初期の活動

キノーの前身は、PiligrimとPalata no.6という二つのバンドでした。当初は「ガーリンと双曲面」というバンド名でしたが、後にボリス・グレベンシコフ（アクアリウムのリーダー）の助言で「キノー」に改名しました。ソ連政府がロック音楽を「ブルジョワ的」とみなしていた当時、キノーは個人のアパートメントや地下クラブなどで活動していました。デビューアルバム『45』は、メンバーが二人だけだったため、アクアリウムのメンバーの協力を得て制作されました。アルバムタイトルは、収録されている13曲の合計時間が45分であることに由来します。

メンバーの変遷と音楽的進化

結成当初はヴィクトル・ツォイ（ボーカル、ギター）とアレクセイ・リュービン（ギター）の二人でしたが、リュービン脱退後、ユーリー・カスパリャン（ギター）、ゲオルギー・グリアノフ（ドラム）、イゴール・チホミロフ（ベース）らが加入し、現在の編成が確立されました。楽曲制作はツォイが中心となり、リュービンはバンド運営を担当していましたが、両者の意見の食い違いからリュービンは脱退しました。その後もメンバーチェンジはありましたが、バンドは活動を続けました。

『ブラッド・タイプ』と世界的評価

1988年に発表されたアルバム『ブラッド・タイプ（Группа крови）』は、キノーの代表作であり、ソ連のみならず海外でも高い評価を得ました。高性能な機材を導入し、技術的にも進化を遂げたこのアルバムは、西側諸国でもリリースされ、批評家からも絶賛されました。このアルバムは、1987年の映画『アッサ』のサウンドトラックにも使用され、キノーの人気を全国的に拡大させました。

ツォイの死とバンドの解散

1990年8月、ヴィクトル・ツォイは交通事故で急死しました。彼の死はソ連社会に大きな衝撃を与えました。死の直前に録音された楽曲を収録したアルバム『黒いアルバム』をリリースした後、キノーは解散しました。ツォイの詩的で簡潔な詞は、自由への憧れをテーマに、愛、戦争、人生の苦悩といった普遍的なテーマを歌い上げました。

遺産と継続的な影響

キノーの音楽は、ロシアのロックシーンに多大な影響を与え、現在も多くのファンに愛されています。ツォイは「ロシアのロックの神様」と呼ばれ、彼の死後も、彼の作品はロシアの若者の心に深く刻まれています。20世紀ロシアロックのベスト100投票では、キノーの楽曲が10曲もランクインし、その人気は現在も衰えることを知りません。現在もメンバーの一部は活動を続け、ツォイへのトリビュートコンサートが開催されています。メタリカが『ブラッド・タイプ』をカバーしたことも話題を呼びました。キノーの音楽とヴィクトル・ツォイの伝説は、これからもロシアの音楽史に語り継がれていくでしょう。

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