くいーん

『くいーん』：日本のアマチュア女装文化を牽引した隔月刊誌

1980年から2003年まで、隔月刊で発行された『くいーん』誌は、日本のアマチュア女装愛好者にとって、長きにわたり重要な情報源であり、交流の場を提供してきた雑誌です。アント商事の発行、アント企画の編集により、独特の文化を築き上げました。

始まり：エリザベス会館と広報誌

アント商事は、当初女性下着の通信販売を行っていましたが、顧客に多くの女装愛好者がいたことから、1979年に東京神田に日本初の商業女装クラブ「エリザベス会館」をオープンします。『くいーん』誌は、翌1980年、このエリザベス会館の広報誌として誕生しました。会館での販売だけでなく、全国の成人向け書店や雑貨店などで流通され、女装愛好者の間で広く読まれました。誌名は「エリザベス」を連想させ、英語の“queen”が持つニュアンスも考慮されたものと思われます。当初は「くい～ん」と表記され、後に「QUEEN」と表記されるようになりますが、「くい～ん」表記も併記されていました。

内容：女装の探求とコミュニティ形成

雑誌の価格は2500円から4000円と高価でしたが、インターネットが普及していなかった当時、女装に関する情報や仲間との交流を求める愛好者にとって貴重な存在でした。そのため、多くの読者を獲得しました。

誌面は、アマチュア女装者のグラビアを巻頭に掲載し、化粧やファッションなどの実践的なテクニックを紹介する記事、国内外の女装者に関するルポルタージュ、そして女装の歴史や社会心理学的な考察など、多岐にわたる内容で構成されていました。特に特徴的だったのは、後半の1/3から1/4を占める「求友メッセージ」欄で、読者同士の文通による交流が盛んに行われていました。この欄は、『くいーん』誌の大きな魅力のひとつでした。

全日本女装写真コンテスト

1984年から毎年開催された「全日本女装写真コンテスト」は、『くいーん』誌を代表する企画でした。唯一の全国規模の女装コンテストとして、最盛期には200名以上の参加者を集め、多くの話題を呼びました。

廃刊：インターネット普及とプロの台頭

1990年代中盤からは、プロのニューハーフを起用した女装グラビア[[雑誌]]が複数創刊され、インターネットの普及により、情報交換や交流の場もオンラインに移行していきました。結果として、『くいーん』誌は部数減少し、2003年に廃刊となりました。連載小説を発表していた前橋梨乃氏がウェブに移行したことは、時代の流れを示す象徴的な出来事と言えるでしょう。

編集者と『くいーん』

20年以上に渡る『くいーん』誌の編集は、ほぼ一人の女性編集者、石川みどり氏によって担われていました。この点は、同誌に客観性をもたらしたという意見がある一方、性的マイノリティの当事者性という観点から議論を呼ぶ点でもあります。

バックナンバーの例

いくつかの号の表紙と掲載内容の例を挙げると、76号は表紙に「岡野香奈」氏を、75号は「浜田絵里」氏を、74号は「綾野純子」氏を、69号は「秋月菜苗」氏をそれぞれ表紙に起用し、読者セミナーレポートや女装テクニック、インタビュー記事などを掲載していました。これらの内容からも、同誌が女装愛好者の多様なニーズに応えていたことが分かります。

まとめ

『くいーん』誌は、インターネット以前の時代における、アマチュア女装愛好者にとってかけがえのない存在でした。その歴史は、日本の女装文化の発展、そしてメディアと社会の変化を反映する貴重な記録として、今後も語り継がれるべきでしょう。

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